理学療法士による発達障がいへの支援内容について
発達障がいを持つお子さんの子育てや日常生活を支える中で、「うちの子は、なぜこんなに椅子に座っていられないのだろう」「どんな運動あそびが効果的なのか分からない」といったお悩みを抱える保護者の方は少なくありません。
発達障がいの特性はお子さんによって千差万別であり、その接し方やアプローチも多様に考えられます。
そこで注目されているのが、運動療法や姿勢のサポートを専門とする理学療法士による支援です。
理学療法士は、医療機関や福祉施設、さらには在宅や学校といったさまざまな場面で、お子さんの身体的な側面にアプローチし、日常生活をより快適に送るための力を身につけるお手伝いをします。
たとえば、体幹の筋力が弱くて姿勢を保つのが難しいお子さんには、無理のない範囲でバランス感覚を育む運動を取り入れたり、座位や立位で安定感を得るコツをアドバイスするなど、細やかな支援が可能です。
また、感覚統合に課題があるお子さんに対しては、触覚や視覚、運動感覚を刺激しながら楽しく身体を動かせるあそびを提案し、「苦手」を少しずつ乗り越えられるようサポートします。
お子さんに合ったプログラムを一緒に考え、保護者が自宅や日常の場面でも取り入れられる方法を共有することで、家庭全体でこどもの成長を支えられるようになるのも、理学療法士の支援の大きなメリットです。
本記事では、理学療法士による発達障がいへの支援内容を詳しく解説し、悩める保護者の方が前向きに行動するためのヒントをお届けします。
発達障がいについて
そもそも発達障がいというのはどんな特徴を持つのでしょうか。
発達障がい支援法における定義としては「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障がい、学習障がい、注意欠陥多動性障がいなど、類似の脳機能障がいが低年齢から現れるもの」とされています。
(出典:「発達障害の理解のために」(厚生労働省))
医療の分野では、発達障がいは「神経発達症」の一部に含まれます。
具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)、知的発達症(ID)、発達性協調運動症(DCD)などの名称が使われています。
たとえば、自閉スペクトラム症(ASD)には、対人関係や社会的コミュニケーションの困難、こだわりの強さや反復行動、感覚の過敏や鈍感といった特徴が。
注意欠如多動症(ADHD)には、不注意や多動性、衝動性といった症状がみられます。
また、発達性協調運動症(DCD)の場合は、運動が苦手、手先が不器用などの特徴があります。
さらに、診断基準を満たさない程度でも特性を持つ方や、複数の症状が重なるケースもよくあります。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)は、主に「対人コミュニケーション・対人関係」に困難を抱えやすく、特定の物事に強いこだわりや興味が偏る傾向があります。
たとえば、相手の表情や気持ちを読み取りにくい、話し方や身ぶりが独特、同じ話題を繰り返したり、変化を嫌って同じルーティンを好むなどが特徴です。
症状の現れ方や程度は人によって大きく異なり、「スペクトラム(連続性)」という言葉が使われるのは、その幅広い特性を表しているからです。
注意欠如多動症(ADHD)
注意欠如多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、「不注意(集中力が続かない)」「多動性(じっとしていられない)」「衝動性(思いついた行動をすぐにしてしまう)」という特徴が見られる発達障がいです。
たとえば、物をよく失くす、話の途中で口を挟んでしまう、席についていられず歩き回る、といった行動が挙げられます。
日常生活や学習、仕事の場面で支障が出る場合があり、年齢や成長段階によっても症状の現れ方が変化します。
限局性学習症(SLD)
限局性学習症(Specific Learning Disorder)は、全般的な知的発達に大きな問題はない一方、読み・書き・計算などの特定の学習分野のみ極端に習得が難しい状態を指します。
たとえば、文字がうまく読めない、単語や数字を書き写すのに時間がかかる、計算の手順を覚えられないなどが挙げられます。
周囲からは「努力不足」と捉えられやすいですが、当事者にとっては先天的または脳機能の特性による困難さが背景にあり、適切な支援や学習方法の工夫が必要です。
知的発達症(ID)
知的発達症(Intellectual Disability)は、一般的に知的機能(IQ)の発達や適応行動に課題があり、日常生活を送るうえでサポートが必要な状態です。
具体的には、読む・書く・計算するといった学習面での遅れ、生活習慣の習得や社会的なルールの理解などに困難を伴う場合があります。
しかし、個々の特性や得意分野も存在し、適切な支援や環境調整を行うことで、社会生活を自分らしく営むことが可能です。
発達性協調運動症(DCD)
発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder)は、日常生活で必要とされる運動や動作をうまく習得・遂行できず、不器用さが目立つ特性を示します。
具体的には、ボタンを留めるのが苦手、運動での動きがぎこちない、文字を書くのに非常に時間がかかるなどが代表的な例です。
これらの不器用さによって、学習や生活面に支障をきたすことがあり、適切な環境調整や支援を受けることで、本人が持つ力をより発揮しやすくすることが重要です。
以上が発達障がいについての説明でした。
続いて、理学療法士と発達がいの関係性についてお話していきます。
理学療法士と発達障がいの関係
理学療法士と発達障がいの関係性についてみていきましょう。
発達障がいの支援には理学療法が有効
発達障がいのあるお子さんの支援では、行動面や学習面だけでなく、身体の使い方や運動機能への配慮も欠かせません。
理学療法は姿勢や筋力、身体の動き方を専門的にサポートする手法であり、発達障がいをもつお子さんの苦手な部分を補ったり、得意な部分をさらに伸ばしたりすることに大きく役立ちます。
例えば、椅子に座り続けるのが難しいお子さんには、体幹の安定性を高める練習や感覚統合を意識した運動を取り入れることで、集中力の維持が期待できます。
また、運動の苦手意識を軽減しながら、あそび感覚で身体を動かすエクササイズを提供することで、自信をつけるきっかけにもなるでしょう。
理学療法士は、医師や作業療法士(OT)などの専門家とも連携しながら、お子さんの発達段階や個性に合わせた運動プログラムを計画・実施します。
具体的には、バランスボールや縄跳び、ボール投げなど動きのバリエーションを取り入れたり、姿勢の保持に必要な筋力を養うためのトレーニングを行ったりします。
これらのアプローチを通じて、身体の使い方に対する苦手意識を軽減し、学習や社会生活への意欲を高める効果が期待できます。
さらに、理学療法はお子さんだけでなく、保護者や学校の先生といった周囲の大人にもメリットをもたらします。
どのように身体を支えればスムーズに起き上がれるか、どんなあそびを取り入れれば体幹が鍛えられるか、どのように声がけすればお子さんが安心して運動に取り組めるかなど、具体的なアドバイスを得られるからです。
こうした情報を共有し、家や学校で実践していくことで、お子さんの生活全体にわたってサポートを行う体制が整いやすくなります。
結果として、お子さんがより主体的に活動し、自分の身体をコントロールする力を育むことにつながるのです。
そもそも理学療法士って?
理学療法士は、PT(Physical Therapist)とも呼ばれる国家資格を持つリハビリテーションの専門職です。
医療や介護の分野で、身体に障害のある方や運動機能に問題を抱える方を対象に、運動療法や物理療法を用いたアプローチを行います。
たとえば、病気やけがの後遺症で歩行が難しくなった方に対してリハビリを実施したり、高齢者が日常生活をより快適に過ごせるようサポートしたりします。
具体的には以下のようなサポートを行っています。
理学療法士の主な支援内容
- 寝返りや起き上がり、立ち上がり、歩行などの基本動作の改善
- 関節の可動域を広げるサポート
- 筋力の強化
- 麻痺の回復を促すリハビリ
- 痛みの軽減
- 日常生活動作の練習
- 歩行練習
(参照:公益社団法人 日本理学療法士協会)
理学療法士は、医師や看護師、作業療法士、言語聴覚士など他の医療スタッフとも連携しながら患者さん一人ひとりに合ったプログラムを作成し、リハビリを進めていきます。
患者さんの身体機能を改善するだけでなく、症状の悪化を防ぎ、残存機能を最大限に活かすことも理学療法士の重要な役割です。
理学療法士の役割3つ
理学療法士の役割は、大きく分けると「運動療法」「物理療法」「日常生活動作訓練による治療」の3つに分類されます。
それぞれどのような内容なのか、順番に見ていきましょう。
運動療法
筋力や関節の動きを正常な状態に近づけるために、理学療法士が身体を支えながら動作を誘導するアプローチです。
必要に応じてストレッチやトレーニング機器を使用することで、弱った部位を強化したり、動作のパターンを再学習したりします。
たとえば、麻痺や筋力低下がある場合、段階的にエクササイズを導入し、少しずつ可動域や筋力を改善させていきます。
物理療法
マッサージや温熱、電気刺激などを組み合わせたアプローチで、痛みの軽減や血行促進、筋緊張の緩和を図ります。
痛みがひどい状態では、患者さんが自分で体を動かすのをためらってしまうこともあるため、このような物理療法を取り入れることで、リハビリへのモチベーション向上につなげます。
物理療法は運動療法を効率よく行うための下準備としても重要です。
日常生活動作訓練による治療
起き上がりや食事、移動、排泄など、日常生活の基盤となる動作を自分の力で行えるようにサポートします。
患者さんが持つ身体機能に合わせて工夫しながら訓練を進めることで、自立度を高め、社会参加しやすい環境を整えていきます。
たとえば、高齢者の転倒リスクを減らすためにバランス練習や安全な立ち上がり方法を指導したり、在宅介護を受ける方の生活空間に合わせた動作方法を提案したりすることも理学療法士の重要な業務です。
このように、理学療法士は3つのアプローチを組み合わせることで、患者さんが「自分の力で日常生活を送る」ことをサポートしています。
障がいや病気、あるいは加齢などによって思うように身体を動かせない方に対しても、寄り添いながら適切なリハビリを提供し、身体機能の回復と維持・向上を目指します。
医療だけでなく、介護・福祉、スポーツ、予防医学など、多様な分野と連携しながら、患者さん一人ひとりの目標に合わせたケアを行うのが理学療法士の魅力です。
日常生活を支える基本的な動作から、痛みの軽減や麻痺の回復、さらには生活の質を高めるための工夫まで、理学療法士が担う役割は非常に大きいと言えます。
もし、ご自身やご家族がリハビリを必要とする状況になった際には、ぜひ理学療法士に相談してみてください。
専門的なアドバイスやサポートを受けることで、日常生活をより快適に、そして前向きに過ごすための大きな一歩を踏み出せるでしょう。
以上が、理学療法士と発達障がいの関係性についてのお話でした。
次に、発達障がいを持つこどもが理学療法を受けるときに保護者が意識することをご紹介します。
発達障がいを持つこどもが理学療法を受ける際に保護者が意識すること
発達障がいを持つこどもが理学療法を受ける際には、まずお子さんの生活場面での気づきや悩みを、遠慮せず理学療法士に共有することが大切です。
あそびや食事など、日常の行動やエピソードは、理学療法のプログラムを組むうえで役立ちます。
さらに、園や学校の先生にも理学療法での取り組みを伝えたり、先生が見学に来られる機会をつくることで、理解がより深まり、効果的な連携が可能になります。
進級や進学時には、必要なセラピーを保護者・学校・理学療法士の三者で検討し、事前に準備しておくとスムーズに進めることができます。
最後に、理学療法士による発達障がいの継続的な支援の大切さをお話します。
理学療法士による発達障がいの継続的な支援を受けよう
日本理学療法士協会では、発達障がいのあるお子さんの保護者向けにパンフレットを作成し、理学療法が担う支援の可能性と継続性を広く伝えています。
理学療法は発達障がいを持つお子さんが大人になり就労するまで、さまざまな環境で受け続けることが可能であり、自立した生活を営むうえでも大きな役割を果たします。
たとえば、就学を機に発達支援センターでの理学療法が終了しても、医療機関の外来や訪問看護ステーションなどを通じて受けられる場合があります。
このように、幼児期から学齢期、そして社会人になってからも必要に応じた形で理学療法を活用し、困りごとがあればアドバイスを受けたり、その時々に合わせたトレーニングを行ったりできる“相談先”を持ち続けることが大切です。
継続的な支援体制があることで、お子さんが自分で人生を組み立てる際の安心材料となり、より豊かな自立生活の実現につながるという点が強調されています。
理学療法士による発達障がいの継続的な支援を受ける大切さを分かっていただけましたでしょうか。
理学療法士による発達障がいへの支援は、お子さんの身体的な特性を理解し、一人ひとりに合った運動プログラムを通じて「できること」を増やしていくアプローチです。
体幹の安定が難しい場合にはバランス感覚を育む活動の提案を。
視覚や触覚、聴覚などの感覚処理がスムーズでない場合には、それぞれに合わせたあそびを取り入れるなど、柔軟な方法で苦手意識を克服していくことができます。
さらに、保護者や学校の先生方とも連携しながら、家庭や学校生活で応用できるコツを共有していくことで、お子さんが日々の生活をより前向きに過ごせるようになることが期待できます。
お子さんに理学療法を受けさせるか迷っている保護者の方にとって、最初の一歩は「どのような専門家に相談すればいいか」を知ることかもしれません。
医療機関や療育センターでの専門相談、通っている学校の先生に情報を尋ねてみるなど、入り口はさまざまです。
本記事でご紹介した内容が、少しでも安心材料となり、お子さんの可能性を広げる選択肢のひとつとして理学療法を活用していただければ幸いです。
悩みや不安があっても、一歩ずつ着実に進める支援方法を見つけることで、お子さんの成長を実感できる日々につながるはずです。
以下の記事では、作業療法士の発達障がい領域の役割について解説しています。
理学療法士と作業療法士では、発達障がいに対するアプローチも異なります。
どちらも大切な内容ですので、こちらも合わせてご参考にしてください。