言語聴覚士(ST)は、ことばや聴覚、嚥下(飲み込み)のリハビリを行う専門職です。

高齢化の進行や医療技術の発展に伴い、今後さらに需要が高まる職業として注目されています。

しかし、「言語聴覚士の将来性は本当にあるの?」「人手不足って本当?」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、言語聴覚士の将来性について、今後の需要や人手不足の現状を踏まえて詳しく解説します。

これからSTを目指す方や、転職を検討している方にとって役立つ情報をお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。

言語聴覚士の将来性について

資格が誕生した当初、言語聴覚士の主な勤務先は医療機関のリハビリテーション科でした。

しかし、近年では介護保険制度の改訂などを背景に、介護・福祉分野での需要が高まり、言語聴覚士は将来性がある職業と言われています。

さらに、以下のような要因から、今後も言語聴覚士の需要は増加すると考えられます。

1. 摂食・嚥下障がいの訓練は言語聴覚士の専門スキル

言語聴覚士の仕事は「話す・聞く」訓練だけでなく、「食べる」ための訓練も含まれます。

食事は生きていくうえで欠かせない行為であり、そのサポートを専門的に行える言語聴覚士は貴重な存在です。

特に、医療機関や介護・福祉施設では、摂食・嚥下訓練の専門家としての役割が求められており、言語聴覚士のスキルは高く評価されています。

現在、有資格者が限られているため、その専門性が重宝される状況は今後も続くと考えられます。

2. 少子高齢化によるニーズの拡大

日本は超高齢化社会へと進んでおり、摂食・嚥下障がいや老人性難聴に悩む高齢者の増加が予想されます。

また、認知症によるコミュニケーション障害を抱える方も増える可能性があります。

このような状況の中で、介護施設や訪問リハビリテーションにおける言語聴覚士の需要は今後ますます高まるでしょう。

求人の増加が見込まれることからも、言語聴覚士の将来性は十分にあるといえます。

3. 小児分野での活躍の広がり

近年、言語聴覚士が特別支援学校や言語障害児学級、「ことばの教室」などの教育機関で働く機会が増えています。

発達障がいに対する理解が進み、治療と教育を組み合わせた「療育」の重要性が認識される中で、言語聴覚士がこどもたちの発達をサポートする場面も増加しています。

また、一般の幼稚園や保育園でも言語聴覚士の必要性が高まり、雇用を検討する施設が増えているため、小児分野における活躍の場は今後も広がっていくでしょう。

言語聴覚士の将来性が不安視される2つの理由

言語聴覚士の将来性は明るいとされていますが、一方で懸念されるポイントもあります。

ここでは、その理由について詳しく見ていきましょう。

機械化による影響はあるのか?

近年、IT技術の進化により、多くの職業が機械によって代替されつつあります。

この流れは言語聴覚療法の分野にも影響を及ぼしており、たとえば人型ロボットを活用した言語訓練や、嚥下筋への電気刺激アプローチなどの技術が導入され始めています。

しかし、これらの技術はあくまで言語聴覚士の不足を補うための業務効率化や、より効果的なリハビリ支援を目的としたものであり、言語聴覚士の役割そのものを代替できるわけではありません。

さらに、言語療法や嚥下リハビリは「人と人とのコミュニケーション」を基盤とするため、完全な機械化は難しいと考えられています。そのため、言語聴覚士の専門性が不要になることはないでしょう。

PTやOTのように資格保持者が増え、飽和する可能性は?

言語聴覚士の国家試験の合格率は約6~7割とされており、資格取得者は年々増加しています。

同じリハビリ職であるPT(理学療法士)やOT(作業療法士)は、資格取得者が増えたことで将来的な雇用の確保を懸念する声も出始めています。

しかし、超高齢社会の進行に伴い、医療・介護分野でのリハビリニーズは今後も拡大すると予測されています。

そのため、既存の医療・介護施設での雇用に加え、新たなサービスや働き方が生まれる可能性は十分にあるでしょう。

特に言語聴覚士は、作業療法士や理学療法士に比べて資格保有者の数がまだ少なく、専門領域である「言語リハビリ」では開業も可能です。

そのため、仮に医療・介護報酬制度に大きな変化があったとしても、言語聴覚士の需要がなくなることは考えにくく、将来性は依然として明るいといえます。

以上が、言語聴覚士の将来性についてでした。

続いて、言語聴覚士の需要についてみていきましょう。

言語聴覚士の需要について

言語聴覚士(ST)は、言語コミュニケーションに関わる「話す」「聞く」「書く」の機能や、嚥下(飲み込む力)のリハビリテーションを専門とする職業です。

現在、全国的に言語聴覚士の需要が高まっており、特に以下の分野での活躍が期待されています。

  • 医療施設
  • 介護・福祉施設
  • 教育機関

医療施設での需要

言語聴覚士が最も多く活躍しているのは、病院やクリニックなどの医療機関です。

日本言語聴覚士協会のデータによると、有資格者の約6割が医療機関に勤務しています。

医療施設における言語聴覚士の主な役割は、以下の診療科でのリハビリテーションです。

  • 耳鼻咽喉科:難聴や聴覚障がいの評価・訓練
  • リハビリテーション科:嚥下障がいや言語障がいのリハビリ
  • 小児科:言語発達の遅れ、吃音、構音障がい(発音障がい)の支援

特に、脳卒中後のリハビリや高齢者の嚥下障がいに対する訓練は、医療機関における重要な役割となっています。

介護・福祉施設での需要

医療機関に次いで、言語聴覚士の需要が高いのが介護・福祉の分野です。

日本言語聴覚士協会の統計では、有資格者の約24%が介護施設、7.2%が福祉施設に勤務しています。

介護施設では、高齢者を対象にした嚥下訓練が中心ですが、障害者福祉施設や小児療育センターでは、利用者の障がいに応じた言語コミュニケーションの訓練も行います。

具体的な職場としては以下のような施設があります。

  • 介護老人保健施設(老健):高齢者の嚥下訓練や言語リハビリ
  • 訪問リハビリテーション:自宅でのリハビリ支援
  • 障害者福祉施設:障がいに応じた言語コミュニケーション支援
  • 小児療育センター:発達障がいや言語発達の遅れへのサポート

福祉分野では、利用者一人ひとりの状態に合わせた個別の支援が求められるため、専門的なスキルが必要になります。

教育機関での需要

小児分野では、学校や幼稚園などの教育機関でも言語聴覚士の活躍が求められています。

特に、以下のような教育機関での支援が中心となります。

  • 特別支援学級(学校内):言語習得のサポート、発達支援
  • 特別支援学校(聴覚・知的障がい対象):言語発達の支援、集団生活への適応サポート
  • 教育機関との連携:学校だけでなく、他の福祉・医療機関と連携しながら支援

教育現場では、こどもがスムーズに学習できるよう、個々の言語発達に応じた指導が求められます。

また、保護者や教師との連携も重要な役割の一つです。

以上が、言語聴覚士の需要についてのお話でした。

特に、医療施設での需要が高く、続いて介護・福祉分野、教育機関でも重要な役割を担っています。

今後も高齢化の進行や発達支援の必要性が高まる中で、言語聴覚士の活躍の場はさらに広がることが予想されます。

言語聴覚士を目指している方は、どの分野で働きたいかを考えながら、自分に合ったキャリアを選択することが大切です。

次に、言語聴覚士の現状についてみていきたいと思います。

言語聴覚士は人手不足?現状について

言語聴覚士は、2019年時点で有資格者数が約3万人と、理学療法士や作業療法士に比べて人手不足というのが現状です。

同じリハビリ職種である理学療法士は約17万人、作業療法士は約9万人と、その数には大きな差があります。

さらに、その後も理学療法士・作業療法士の有資格者数は増加傾向にあり、言語聴覚士の人材不足が際立っています。

また、2023年の国家試験受験者数を見ても、言語聴覚士はリハビリ職種の中で最も少ない結果となりました。

2023年 国家資格受験者数

  • 理学療法士:12,948人
  • 作業療法士:5,719人
  • 言語聴覚士:2,515人

このようなデータを見ると、「言語聴覚士の需要は少ないのでは?」と感じるかもしれません。

しかし実際には、小児領域・成人領域の両方で高い需要があり、病院や福祉施設、学校など幅広い分野で活躍の場が広がっています。

特に現場では言語聴覚士の人材が不足しており、資格を取得すれば、就職のチャンスが多い職種といえるでしょう。

以上が、言語聴覚士の現状についてのお話でした。

続いて、言語聴覚士が少ない理由をみていきましょう。

言語聴覚士が少ない理由

言語聴覚士(ST)は、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)と比べて有資格者数が少ないのが現状です。

需要の高い職種であるにもかかわらず、言語聴覚士が少ない理由は何でしょうか?

その背景には、以下の3つの理由が挙げられます。

  1. 他のリハビリ職種に比べて認知度が低い
  2. 国家資格取得のハードルが高い
  3. ネガティブなイメージを持たれやすい

それぞれ詳しく解説していきます。

他のリハビリ職種に比べて認知度が低い

言語聴覚士は、理学療法士や作業療法士に比べて一般的な認知度が低い傾向にあります。

理学療法士や作業療法士は、整形外科やリハビリ施設などで目にする機会が多いのに対し、言語聴覚士の活躍する場は病院や介護施設が中心で、日常生活で接する機会が少ないことが一因です。

また、言語聴覚士は国家資格としての歴史が浅いことも影響しています。

理学療法士・作業療法士が国家資格として制定されたのは1965年ですが、言語聴覚士は1997年に法制化されました。

この30年以上の差が、職種の認知度に影響を与えていると考えられます。

ただし、一般的な認知度は低いものの、医療・介護業界では言語聴覚士の需要が高まっているのも事実です。

また、夜勤がなく、残業も少なめな職場が多いため、ライフワークバランスを取りやすい働き方ができる職種ともいえます。

国家資格取得のハードルが高い

言語聴覚士になるには、国家試験に合格することが必須です。

しかし、理学療法士や作業療法士に比べて、国家試験の合格率が低いことが特徴です。

各資格の国家試験について、直近5年間の受験者数・合格者数・合格率の推移をまとめました。

言語聴覚士(ST)

年度 受験者数 合格者数 合格率
2023年 2,515人 1,696人 67.4%
2022年 2,593人 1,945人 75.0%
2021年 2,546人 1,766人 69.4%
2020年 1,766人 1,626人 65.4%
2019年 1,630人 1,630人 68.9%
直近5年間平均 2,210人 1,733人 69.0%

(出典:日本言語聴覚士協会「会員動向」)

理学療法士(PT)

年度 受験者数 合格者数 合格率
2023年 12,948人 11,312人 87.4%
2022年 12,685人 10,096人 79.6%
2021年 11,946人 9,434人 79.0%
2020年 12,283人 10,608人 86.0%
2019年 12,605人 10,809人 86.0%
直近5年間平均 12,493人 10,452人 83.6%

(出典:日本理学療法士協会「統計情報」)

作業療法士(OT)

年度 受験者数 合格者数 合格率
2023年 5,719人 4,793人 83.8%
2022年 4,861人 4,311人 88.7%
2021年 5,549人 4,510人 81.3%
2020年 6,532人 5,548人 87.3%
2019年 6,358人 4,531人 71.3%
直近5年間平均 5,804人 4,739人 82.5%

(出典:厚生労働省「国家試験合格発表」)

このデータを見ると、「言語聴覚士の資格取得は難しい」と感じるかもしれません。

しかし、試験内容そのものが極端に難しいわけではありません。

過去問と類似する問題が多く出題されるため、基礎知識をしっかり固め、過去の出題傾向を押さえることで合格しやすくなります。

ネガティブなイメージを持たれやすい

言語聴覚士には、「転職しにくい」「給料が安い」といったネガティブなイメージを持つ人も少なくありません。

しかし、実際のところ、言語聴覚士の求人は増加傾向にあり、転職のチャンスも多いのが現状です。

また、転職を繰り返すことでキャリアアップや年収アップが可能であり、実務経験を積むことでより良い条件での転職がしやすい職種といえるでしょう。

以上が、言語聴覚士が少ない理由でした。

次に、これからの言語聴覚士に求められることをご紹介します。

これからの言語聴覚士に求められること

言語聴覚士(ST)の需要は今後も高まることが予想されますが、それに伴い言語聴覚士の数も増えていくため、継続的に活躍するためには専門性を高めることが重要です。

では、どのようなスキルを身につけるべきなのか、具体的に見ていきましょう。

他人に負けない得意分野を持つ

言語聴覚士は、幼児から高齢者まで幅広い年齢層を対象に、言語コミュニケーションや摂食嚥下のリハビリを行います。

そのため、全般的な知識を備えるジェネラリストとしての働き方もありますが、特定の専門分野を持つことは、重宝されるSTになるために不可欠です。

専門性を深めるためには、学生のうちから積極的に学び、研究発表や論文の抄読に取り組むことが大切です。

また、STとして働き始めてからも、日本言語聴覚士協会の生涯学習プログラムを活用し、「認定言語聴覚士」などの資格を取得することで、専門性をさらに高めることができます。

人口が少なく、今後需要が高まる分野

言語聴覚士の人口が少なく、今後需要が高まる分野は以下の2つです。

小児言語・認知分野

自閉症や発達障がいの支援ニーズが増加していることに伴い、小児の言語発達支援の需要も年々高まっています。

しかし、日本言語聴覚士協会によると、小児言語・認知分野に従事する言語聴覚士は全体の約10%に留まっており、圧倒的に人材が不足している状況です。

小児リハビリに関する知識を深め、専門的に学ぶことで、社会的にも大きな貢献ができるだけでなく、今後ますます求められる言語聴覚士として活躍するチャンスが広がるでしょう。

聴覚分野

高齢化が進む日本では、加齢性難聴を含む聴覚障害を抱える方が増加しています。

補聴器の出荷台数は年々増えており、補聴器装用者も増加傾向にありますが、聴覚分野の言語聴覚士は全体の約5%程度と少なく、人材不足が深刻です。

言語聴覚士が補聴器に関わる職場には、耳鼻科、補聴器専門店、補聴器メーカーなどがあり、「認定補聴器技能者」の資格を取得すると、より専門性の高い分野で活躍できる可能性が広がります。

聴覚リハビリに特化したSTは今後ますます需要が高まるため、注目すべき分野と言えるでしょう。

診療報酬改定で広がる言語聴覚士の活躍の場

2020年度の診療報酬改定により、言語聴覚士の活躍の場がさらに広がりました。

特に以下の分野では、STの配置が新たに認められたことで、需要が急速に拡大しています。

  • 呼吸器リハビリテーション料の実施者にSTを追加
  • 難病患者リハビリテーション料の施設基準にSTを追加
  • 脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅱ)の施設基準に、言語聴覚療法のみを実施する場合の規定を追加
  • STの摂食嚥下支援チームへの介入が必須条件に

このような診療報酬の見直しにより、言語聴覚士の需要はさらに高まっていますが、対応できる人材が不足しているのが現状です。

これらの分野に精通する言語聴覚士は、希少価値が高く、今後のキャリアにおいて大きな強みとなるでしょう。

医療知識の重要性

現在、多くの言語聴覚士は病院で働いていますが、今後は介護・福祉・教育分野にもその活躍の場が広がると考えられています。

その際に強みとなるのが、医療現場での経験と医療に関する知識です。

例えば、訪問リハビリでは、一人で患者さんの自宅を訪問し、コミュニケーションや摂食嚥下のリハビリを行うため、血圧や体温の管理、肺炎や誤嚥の兆候の察知、脳血管疾患の再発予防など、幅広い医学的知識が求められます。

将来的に介護や福祉・教育分野での活躍を考えている方も、一度は医療機関での経験を積むことで、より幅広い視点を持った言語聴覚士として成長できるでしょう。

言語聴覚士としての個性を活かす

言語聴覚士は、患者さん一人ひとりの生活に寄り添いながらリハビリを提供する仕事です。

そのため、医療知識や技術だけでなく、自分自身の経験や特技が大きな強みになります。

例えば、以下のようなスキルや趣味を持つことで、リハビリのアプローチに幅が生まれます。

  • 絵を描くスキル → 訓練用の教材や絵カードを自作できる
  • パソコンスキル・プログラミング → 言語リハビリ用のアプリ開発やデジタル教材作成
  • 料理の知識 → 摂食嚥下リハビリの際に食事形態の工夫ができる
  • 歴史や音楽の知識 → 高齢者との会話や回想法リハビリに役立つ

また、言葉を発することが難しい患者さんの思いをくみ取り、共感する力も言語聴覚士には欠かせません。

患者さんの価値観や生活背景を理解しながら、「その人らしい生活」をサポートすることが、言語聴覚士としてのやりがいにつながります。

以上が、これからの言語聴覚士に求められることでした。

言語聴覚士として長く活躍するためには、専門性を高め、自分だけの強みを持つことが重要です。

小児リハビリや聴覚分野など、言語聴覚士が不足している領域でのスキルを磨くことは、今後のキャリアに大きなプラスになります。

また、診療報酬改定によって言語聴覚士の活躍の場が広がった今、新しい分野にチャレンジすることも大きなチャンスです。

さらに、医療知識や個性を活かし、患者さん一人ひとりに寄り添うことができる言語聴覚士は、今後ますます求められる存在となるでしょう。

自分の得意分野を見つけ、専門性を深めながら、言語聴覚士としての可能性を広げていきましょう。

言語聴覚士は、高齢者の増加や医療・福祉分野の発展により、今後ますます需要が高まる職業です。

特に、嚥下障害や認知症のリハビリに関するニーズが増加し、病院や介護施設だけでなく、訪問リハビリや小児分野でも活躍の場が広がっています。

一方で、現場では人手不足が深刻化しており、一人ひとりの負担が大きくなりやすいという課題もあります。

しかし、それは裏を返せば、言語聴覚士としての活躍のチャンスが多いということ。

これから資格取得を目指す方にとっては、将来的に安定した職業選択となる可能性が高いでしょう。

言語聴覚士は、専門性の高さとやりがいのある仕事です。

将来性をしっかり見据え、自分に合った働き方を考えながら、資格取得への一歩を踏み出してみてください。