近年、「保育士が人手不足」「人手が確保できない」といった声が多く聞かれるようになり、保育の現場は深刻な人手不足に直面しています。

こどもたちの健やかな成長を支える保育士の存在は非常に大切ですが、その保育士たちが十分に確保できていない現状は、保護者や関係者にとっても不安要素のひとつです。

この記事では、なぜ保育士が人手不足になっているのか、その背景や原因を丁寧に解説し、現場で起きている課題にどう向き合えばよいのか、解決に向けた方法についてもわかりやすくご紹介します。

保育士として働いている方、これから目指す方、保育に関わるすべての方にとって参考になる情報をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。

保育士はどのくらい人手不足してる?

近年、保育士の人手不足は深刻な社会問題として注目を集めています。

では、実際にどの程度保育士が不足しているのでしょうか。

厚生労働省のデータをもとに、保育士の現状について詳しく見ていきましょう。

全国的に見て約6万人の保育士が不足している

厚生労働省が公表している「保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けて」という資料によると、2017年時点で全国で必要とされていた保育士の数は約46万人とされていました。

一方で、実際に保育所などの現場で働いている保育士の数は約40万人にとどまっており、単純計算でおよそ6万人の保育士が不足している状況にあります。

さらに、保育士の求人倍率にもその人材不足の実情が現れています。

厚生労働省の発表によれば、2018年11月時点での全国の保育士の有効求人倍率は3.20倍に達しており、特に東京都では6.44倍と、非常に高い水準を記録していました。

つまり、1人の求職者に対して3〜6つの求人がある状況であり、保育士の需要の高さがうかがえます。

このようなデータからも、保育士は全国的に慢性的な人手不足に直面していると言えるでしょう。

新たな保育施設を整備する動きが進む一方で、それを支える保育士の数が追いついていないのが現状です。

保育士不足が「待機児童」の問題を引き起こしている

保育士の不足は、保育所への入所を希望しても実現できない「待機児童」の問題にも直結しています。

保育所の利用条件を満たしているにもかかわらず、定員がいっぱいであるために入所できないこどもたちのことを「待機児童」と呼びます。

2016年には、保育園への入所を希望していた母親がブログで発信した「保育園落ちた日本死ね!」という言葉が大きな話題となり、その年の流行語大賞にも選ばれました。

この出来事は、保育士不足が引き起こす社会的な問題に対する人々の関心を一気に高めるきっかけとなりました。

待機児童の増加の背景には、保育施設の増設が進んでも、そこに勤務する保育士が不足しているという根本的な問題があります。

実際には、施設を新しく設けても人手が足りないために十分な受け入れができず、経営が成り立たなくなり、閉園に追い込まれるケースも報告されています。

このように、保育士不足はただ職場の問題にとどまらず、こどもや保護者、さらには地域社会全体に大きな影響を与えており、今後も継続的な対策が求められています。

以上が、保育士はどのくらい人手不足してるのかについての回答でした。

続いて、有資格者は多いのに、保育士が足りていない現状についてお話していきます。

有資格者は多いのに、保育士が足りていない現状

これまでに、日本における保育士不足の現状についてお伝えしてきました。

保育園やこども園で働く保育士の数が足りないという声が多く上がっていますが、実は保育士の資格を持つ人そのものが減っているわけではありません。

実際には、保育士の資格を取得しているにもかかわらず、保育の仕事に就いていない方が多く存在しているのです。

ではなぜ、そのようなことが起こっているのでしょうか。

ここでは、有資格者は多いのに、保育士が人手不足に陥っている現状について詳しくご説明します。

保育士として働くことを希望しない有資格者が多い

厚生労働省の調査によると、保育士の資格を持っている求職者のうち、実際に保育士として働くことを希望している人は51.5%にとどまっています。

反対に、48.5%の人は保育士の仕事を希望していないというデータが示されています。

(出典:保育士人材確保のための「魅力ある職場づくり」に向けて)

つまり、資格を保有している人の約半数が、保育の現場で働くことに前向きではないということがわかります。

実際に、保育士資格を取得したものの、保育所などに就職する人の割合は全体の半分程度にとどまっているといわれています。

2015年の時点で保育士登録者はおよそ119万人でしたが、その中で実際に保育士として働いていない「潜在保育士」は約76万人にものぼるとされています。

保育士の資格を持ちながら、まったく異なる職種に就いている人も少なくありません。

以下の円グラフは、保育士の資格を有していながら、現在どのような仕事に就いているかを示すものです。

このように、保育士資格を持っていても保育の現場から離れている人が数多く存在しています。

待機児童の問題を解消するためにも、こうした「潜在保育士」の方々が安心して保育の仕事に復帰できるような環境整備が求められます。

就職しても5年以内に辞める保育士が多数いる

次にご紹介するグラフは、厚生労働省によって調査された保育士の勤務年数を示すものです。

(出典:保育士人材確保のための「魅力ある職場づくり」に向けて)

このグラフを見ると、保育士として働き始めても、実に約半数の方が5年以内に離職しているという実態が明らかになっています。

その背景にはさまざまな理由がありますが、特に多いのが女性のライフステージの変化によるものです。

出産や育児のタイミングで仕事を辞めざるを得ない状況になる方が多く、それが離職率の高さにつながっていると考えられます。

また、多くの保育施設では妊娠中も安心して働ける職場環境が整っていなかったり、産休・育休の取得がしづらかったりする現実もあるようです。

その結果、せっかく保育士として経験を積んでも、家庭との両立が難しくなり退職を選ぶ人が増えてしまいます。

今後は、出産や育児といったライフイベントを迎えても、安心して働き続けられるような支援体制や環境の整備が急務となっています。

保育士一人ひとりが安心して長く働けるようにすることで、保育の現場はさらに安定し、こどもたちにとってもより良い環境が整うことでしょう。

以上が、有資格者は多いのに、保育士が人手不足現状についてのお話でした。

続いて、保育士が人手不足となっている背景とその原因についてお話していきます。

保育士が人手不足となっている背景とその原因について

厚生労働省では、保育士の資格を持っているにもかかわらず、実際には保育士として就職・就業しない人々の理由について詳細な調査を行っています。

その結果から、なぜ保育士として働くことを選ばないのか、その背景が明らかになっています。

保育士が人手不足となっている背景とその原因についてみていきましょう。

【保育士としての就業を希望しない主な理由】

理由 割合
賃金が希望に見合っていない 47.5%
他の職種に関心がある 43.1%
責任の重さや事故への不安 40.0%
自身の健康や体力に対する不安 39.1%
休暇が少ない、または取りにくい 37.0%
勤務時間が希望と異なる 26.5%
ブランクがあることへの不安 24.9%
社会からの業務評価が低い 22.3%
保護者との関係に難しさを感じる 19.6%
自分自身の子育てとの両立が困難 14.9%

※出典:保育士人材確保のための「魅力ある職場づくり」に向けて

このように、保育士として働くことに対して不安を感じたり、他の仕事に魅力を感じたりする理由は多岐にわたります。

特に、「保育園の労働環境が過酷である」「こどもを預かることに対する責任が重い」などの心理的負担が、就業意欲の低下につながっているのが現状です。

賃金の低さがもたらす問題

保育士の人材不足を語る上で、最も大きな課題の一つが「賃金の低さ」です。

厚生労働省の調査では、保育士の平均給与額は他の福祉・教育・医療系職種と比較してもかなり低い水準にあることが分かっています。

職種別 平均給与額(6ヶ月間の税込み現金給与総額)

職種 平均給与
全職種平均 約329万6,000円
保育士 約216万1,000円
幼稚園教諭 約231万4,000円
看護師 約329万円
福祉施設介護員 約219万7,000円
ホームヘルパー 約220万7,000円

このように、身体的にも精神的にも負担が大きい保育士の仕事でありながら、他職種と比べて年収が著しく低い状況となっています。

例えば、私立保育園で働く保育士の平均月収は約23万円で、年収にするとおよそ342万円となります。

これは、一般的なサラリーマンの平均年収である420万円と比べると、およそ100万円近くも差があるという結果になります。

さらに、この金額は税込みであり、実際の手取り収入はさらに少なくなります。

手取りが20万円を下回ることも少なくないため、日々の生活にも不安を感じる保育士が多く存在しているのが実情です。

厚生労働省が2011年に実施した調査では、自分の仕事内容と報酬のバランスについて尋ねたところ、「やや安い」と答えた人が37.2%、「かなり安い」と回答した人も15.0%にのぼりました。

このように、過酷な労働内容に対して給与水準が見合っていないことが、保育士としての就業意欲を低下させる大きな原因のひとつとなっているのです。

ただし、保育士の給与を単純に上げるというのは簡単な話ではありません。

認可保育園の運営は主に公的な補助金によって成り立っており、経営面から見ても自由に賃金を上げる余裕がないのが現状です。

一方、認可外保育園でも保育料の上限が行政によって定められている場合が多く、収入の上限が限られているため、職員への給与アップが難しい構造になっています。

保育士にかかる精神的重圧と責任の大きさ

保育士という職業には、他人の大切なこどもを預かるという重大な責任が伴います。

この責任の重さに対してプレッシャーを感じ、「自分には務まらないのではないか」と不安になる人も少なくありません。

現在、保育士の人数が不足しているため、一人ひとりが受け持つこどもの数が多くなる傾向があります。

その結果、目が行き届かない場面が増え、「自分の注意不足で事故が起きたらどうしよう」「怪我をさせてしまったらどう責任を取ればよいのか」といった心配を常に抱えて働くことになります。

また、保護者の側から「この保育士さんなら安心して預けられる」と期待されることも、本人にとっては大きなプレッシャーとなります。

信頼を得ることは大切ですが、その信頼を裏切ってはいけないという意識が強くなりすぎると、精神的な負担が蓄積されてしまうこともあるのです。

このような精神的ストレスの多さから、保育士という職業に魅力を感じながらも、実際にはその道を選ばないという人が一定数存在しています。

休暇が取りにくい職場環境

保育士の勤務体系は、基本的には週休二日のシフト制で運用されている保育園が多いものの、実際には休暇を自由に取得するのが難しいという現実があります。

人手不足によってシフトに余裕がなくなっている場合や、運動会や発表会などの行事の準備のために休日出勤が当たり前となっている園も少なくありません。

結果として、事前に休みを申請していても、やむを得ず出勤しなければならなくなるケースが多く見受けられます。

また、職場内の人間関係が閉鎖的であったり、上下関係が厳しかったりする場合、周囲に気を遣って「休みたい」と言い出せない雰囲気が生まれてしまいます。

このような職場環境では、心身ともに疲弊しやすくなります。

加えて、仕事が終わらないときには、自宅に仕事を持ち帰ることもあります。

連絡帳の記入や行事の準備物の作成、保育計画の見直しなど、業務量が多く、プライベートの時間を削らざるを得ない保育士も多いのが現状です。

休日にも業務が入り込み、心からリラックスできる時間が持てない状態が続くと、次第に働く意欲が薄れてしまうこともあるでしょう。

さらに、こどもを育てながら働く保育士にとっては、家庭との両立が難しくなることもあります。

独身の保育士であっても、「将来結婚したら続けられないかもしれない」と感じる人は少なくありません。

労働時間の長さがもたらす課題

保育士の勤務時間が長くなりがちである点も、離職や人材不足につながっている要因のひとつです。

実際の調査では、勤務時間の長さについて問題を感じている人が全体の9割近くにのぼるという結果もあります。

こどもの世話という直接的な保育業務のほかに、保護者との連絡対応、記録業務、各種書類の作成、定期的な会議や研修など、多くの仕事を抱えているのが現実です。

さらに、保育士の業務の多くは手書きで行われているケースが多く、効率化されていない園もあります。

そのため、事務処理に時間がかかってしまい、結果として残業が増える傾向にあります。

また、これらの事務作業はこどもの保育中にはできないため、昼休みや給食の時間を利用して行うことも少なくありません。

保育士にとっての「休憩」は、実質的には存在しないと感じる場面も多いのです。

特に、入園式や卒園式、お遊戯会などの行事がある時期には、準備のための作業が膨大になり、平日は残業、週末は出勤というスケジュールになることもあります。

その結果、仕事と生活のバランスが取りにくくなり、心身に大きな負担がかかってしまうのです。

保護者との関係構築が難しいケースもある

保育士にとって、こどもへの関わりだけではなく、その保護者との関係を築いていくことも重要な業務の一つです。

しかしながら、この人間関係がスムーズにいかないケースも多く、職場でのストレス要因のひとつとなっています。

最近では「モンスターペアレント」と呼ばれる、過剰な要求や理不尽な態度をとる保護者の存在も問題視されています。

例えば、こどもが園で軽い怪我をしてしまった場合、「なぜ怪我をしたのか、詳細な経緯を今すぐ説明しろ」と強い口調で詰め寄られたり、「保育士の責任だ」と感情的に責められたりすることがあります。

また、過剰な心配から、日々の些細な出来事に対してもクレームが寄せられるケースが多く、保育士は神経をすり減らしながら対応しなければならないのです。

さらに、他のこどもへの配慮がない保護者も一定数おり、自分のこどもが熱を出していても無理に登園させるなど、保育環境全体に悪影響を与える行動をとる場合もあります。

ほかにも、「うちの子には自宅から持ってきた飲み物しか飲ませないようにしてください」など、園の方針にそぐわない要求をする保護者も存在します。

若い保育士に対しては、「経験がないから信用できない」と決めつけ、どんな説明にも耳を貸さない保護者も見られます。

こうした対応に追われることで、保育士が本来注力したいこどもとの関わりに時間と気持ちを使えなくなり、心身共に疲弊してしまうことがあります。

職場内の人間関係が複雑でストレスの要因に

保育士の多くは女性であるため、保育園という職場は女性同士の人間関係が中心となっています。

 これは決して悪いことではありませんが、時には特有の空気感や上下関係がストレスの原因となることもあります。

特に、チームで保育を行う際に、保育方針の違いや性格の不一致から意見が対立し、口論に発展してしまうこともあります。

また、先輩後輩関係においては、「先輩には雑用をさせてはいけない」「先輩と話すときは必ず自分の作業を止めなければならない」など、独自のルールや空気が存在していることもあり、新人にとっては心理的負担が大きくなります。

さらに、「嫉妬されて嫌味を言われる」「些細なことで評価を下げられる」といったケースも存在し、職場での人間関係に疲れてしまう保育士は少なくありません。

男性保育士がいる職場では、女性ばかりの環境に適応できず孤立感を抱えることもあります。

保育園という比較的閉鎖された空間では、コミュニケーションの取り方一つで空気が悪くなることもあり、気を遣い続ける毎日に疲れてしまうという声もあります。

このように、人間関係が原因で離職を考える保育士は非常に多く、保育業界全体としても見過ごせない課題の一つとなっています。

出産・育児など家庭の事情による離職の多さ

保育士として働いていた人の中には、結婚や出産、育児などのライフステージの変化を理由に退職を選択する人が多くいます。

実際、東京都福祉保健局が2014年に行った調査では、保育士の離職理由として最も多かったのが「妊娠・出産」であり、全体の25.7%を占めています。

先述したように、保育士の勤務時間は長く、休みも自由に取れないという職場環境が一般的であるため、自身の子育てと仕事を両立することに不安を抱く保育士は非常に多くいます。

また、こどもを保育園に預けようとしても、希望する園に入れないという待機児童の問題が重なり、自分のこどもを預ける手段が見つからず、仕事自体を諦めざるを得ないケースもあります。

こうした状況のなか、「育児との両立が難しい職場では働き続けるのは無理だ」と感じてしまい、やむなく退職を選ぶ人が後を絶ちません。

政府や自治体による育児支援策、そして柔軟な働き方が可能となるような労働環境の整備は、今後の保育士不足解消に向けて急務であると言えるでしょう。

以上が、保育士が人手不足となっている背景とその原因についてのお話でした。

続いて、保育士不足が続いた場合、どのような影響が生じるかについてみていきましょう。

【保育士】人手不足が続いた場合、どのような影響が生じるか?

このまま保育士の人手不足の状況が改善されず、慢性的な人手不足が続いてしまった場合、私たちの生活や社会にさまざまな影響が及ぶ可能性があります。

特に、子育て世帯や労働市場全体にとって深刻な問題となる恐れがあります。

例えば、以下のような事態が起こることが考えられます。

  • 保育園に入れないこどもが増えることで「待機児童」が増加する
  • 育児と仕事の両立が難しくなり、子育て世帯が離職を余儀なくされる
  • 社会全体として、働き手の数が減少し、労働力不足が深刻化する

保育士が不足してしまい、国が定める保育士の配置基準を満たすことができなくなった場合、保育園がやむを得ず一時的に休園したり、最悪の場合は閉園に至ったりするケースも出てくるでしょう。

そうなれば、保護者の方々は新たな預け先を探さなければならなくなりますが、それがすぐに見つかるとは限りません。

当然ながら、保育士自身もその保育園で働き続けることができなくなってしまいます。

これにより、さらに保育士の離職が進むという悪循環が生まれてしまう可能性もあります。

また、保育園に預けることができないために仕事を辞めざるを得なくなる保護者が増えれば、それが日本全体の労働力の減少へとつながっていきます。

実際、日本ではすでに人口減少と少子高齢化の影響により、深刻な労働力不足が問題視されています。

今後は労働力人口がさらに減少していくと予測されており、保育士不足はこの傾向に拍車をかけてしまう要因となりかねません。

このように、保育士の人手不足は単なる保育の現場の問題にとどまらず、社会全体に大きな影響を及ぼす可能性がある重要な課題なのです。

早急な対策と、働きやすい環境づくりが求められています。

以上が、保育士の人手不足が続いた場合、どのような影響が生じるかについてでした。

続いて、保育士不足を解消するための国の制度についてお話していきます。

保育士の人手不足を解消するための国の制度について

ここからは、現在すでに実施されている「保育士の人手不足の解消」を目的とした、国による各種制度や取り組みについて、詳しくご紹介していきます。

国は、深刻化している保育士不足の問題に対応するため、保育園などの事業者に向けて、いくつかの支援制度を整えています。

主な支援内容は、以下の3つに分けられます。

  • 雇用管理改善支援(職場環境の整備や改善)
  • 求人と求職のマッチング支援(再就職支援など)
  • 能力開発支援(人材の育成や継続就業の後押し)

ここでは、それぞれの支援策について、順番に解説していきます。

雇用管理改善支援(働く職場の環境改善に向けて)

まず1つ目は、保育士の待遇や労働環境をより良くするための支援制度です。

中でも特に注目すべきなのが、「保育士の処遇改善」に関する取り組みであり、これは実際の給与額にも関係してくる重要なポイントです。

これまでに、国は以下のような処遇改善制度を導入してきました。

  • 処遇改善等加算Ⅰ
  • 処遇改善等加算Ⅱ
  • 保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業(通称:処遇改善等加算Ⅲ)

処遇改善等加算Ⅰ

2015年に始まった「処遇改善等加算Ⅰ」は、保育園などの施設で働くすべての職員に対して、平均勤続年数に基づいて加算率が設定され、その加算率に応じた補助金が国から支給される制度です。

この補助金は、保育園などの事業主が自治体に申請し、認可を受けたうえで職員に支給されます。

ただし、支給される金額については、各施設の判断に任されているため、職員ごとに金額が異なる場合があります。

処遇改善等加算Ⅱ

2017年に導入された「処遇改善等加算Ⅱ」は、一定の経験年数を持つ保育士に対して、キャリアアップを支援するための制度です。

特に、3年以上の勤務実績がある保育士が対象となり、決められた研修を修了し、役職に就任した場合に、月額5,000円から最大40,000円までの加算が受けられる仕組みとなっています。

保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業(処遇改善等加算Ⅲ)

2022年2月に新たに設けられたこの制度は、保育士や幼稚園教諭を対象に、月額でおよそ9,000円(収入全体の約3%)を引き上げることを目的としています。

そのために、保育園などの事業主に対して、必要な費用の一部が補助される制度です。

制度名に「臨時」という言葉が含まれているとおり、当初は一時的な支援策としてスタートしましたが、2022年10月以降は「処遇改善等加算Ⅲ」として引き続き継続されています。

なお、保育士の処遇改善についてさらに詳しく知りたい場合は、「2023年(令和5年)【最新】保育士の処遇改善手当ての額や支給条件、現状をわかりやすく解説!」といった情報を参考にするのも良いでしょう。

求人と求職のマッチング支援(再就職を支える制度)

次に紹介するのは、保育士として働きたいと考えている人と、保育人材を必要としている保育施設とのマッチングを支援する制度です。

たとえば、ハローワーク内に設置されている「人材確保対策コーナー」や、社会福祉協議会を通して運営されている「保育士・保育所支援センター」の窓口では、事業主や求職者からの相談に応じ、それぞれに対して適切なアドバイスを提供しています。

また、最近では民間企業が運営する保育士向けの転職支援サービスも増えてきており、保育士資格を活かして働ける場は、保育園に限らず広がりを見せています。

そういった選択肢の多様化も、保育士不足の解消に向けて重要な視点となります。

能力開発支援(人材育成と就業継続のために)

最後にご紹介するのは、保育士の育成や、現在働いている保育士が今後も長く活躍し続けられるようにするための支援制度です。

主な支援内容は、以下の2点に分けられます。

  • 保育士資格の取得を支援する制度
  • 自治体による研修制度の実施

まず、保育士資格の取得支援についてですが、これは無資格の方を対象にした制度です。

資格取得に必要な学習費や就職活動にかかる費用などについて、修学資金の貸し付けや各種援助が行われています。

これによって、経済的な理由で保育士を目指すことを諦めていた人にも、道が開かれやすくなっています。

また、すでに保育士として現場で働いている方に向けては、市区町村などが中心となって、離職を防ぎ、キャリアアップを促すための研修を実施しています。

これにより、保育の質を高めるだけでなく、保育士自身のモチベーション向上にもつながっています。

以上が、保育士の人手不足を解消するための国の制度についてのお話でした。

続いて、保育士不足を解消するための自治体制度についてお話していきます。

【保育士】人手不足を解消するための自治体制度とは

現在、保育士の人手不足が深刻な社会課題となっており、全国の多くの地方自治体では、独自にこの問題に対応するためのさまざまな制度が設けられています。

そうした取り組みの一つに、「保育士人材バンク」といった名称で展開される制度もあります。

こうした制度は、保育士を目指す方やすでに保育の現場で働いている方に向けて、経済的な支援や職場環境の改善を目的として実施されているもので、地域ごとに内容や条件は異なります。

ここでは、特に代表的な制度として、以下の4つを紹介し、それぞれについて詳しくご説明していきます。

  • 奨学金返済支援制度
  • 保育士のこどもの優先入園制度
  • 家賃補助制度
  • 処遇改善手当(自治体独自の制度)

奨学金返済支援制度について

最初にご紹介するのは、保育士を対象とした奨学金返済支援制度です。

この制度は、大学や短大、専門学校などで受けた奨学金の返済を、保育士として働くことで支援してもらえるという内容になっています。

具体的には、一定の年数以上、保育士として継続して勤務することを条件に、奨学金の一部または全額が免除されたり、返済額の補助が受けられたりします。

保育士不足に悩む多くの自治体では、この制度を活用して保育人材を確保する動きを強めており、若年層の保育士が働きやすい環境を整えるためにも有効な支援策となっています。

自治体によっては、対象となる学校や勤務年数に細かな条件がある場合もあるため、詳細は各自治体の公式ホームページなどで確認する必要があります。

保育士のこどもの優先入園制度とは

次に紹介するのは、保育士自身のこどもが、保育施設に優先的に入園できる制度です。

この制度は、2017年(平成29年)に国が発表した「子育て安心プラン」の中でも、「保育人材の確保」の観点から有効な施策として盛り込まれ、全国的に広く周知されてきました。

この制度では、以下のような取り扱いが一般的です。

  • 保育士が保育園などで勤務している場合、保育施設の入園選考時に利用調整点数へ一定の加点がされる
  • 勤務している保育園に、自分のこどもを優先的に入園させることが可能となる

このような仕組みによって、保育士自身が安心して働ける環境が整えられ、離職防止や新規就業者の確保にもつながっています。

もともとは「自治体が設置する保育施設に勤務している場合のみ」加点されるケースが多かったのですが、現在では、自治体の圏域を越えた利用調整を推奨する動きも出てきています。

これにより、より柔軟に制度を活用できるよう改善が進められているのが特徴です。

家賃補助制度について

3番目にご紹介する制度は、保育士向けの家賃補助制度です。

この支援策は、保育士が住んでいる賃貸物件に対して、家賃の一部または全額を自治体が補助するというもので、経済的な負担を軽減する効果があります。

「保育士宿舎借り上げ支援事業」という名称で実施されており、国と地方自治体が連携して補助金を拠出しています。

対象となるのは、原則として採用から10年以内の保育士であり、たとえば月額82,000円を上限に家賃が支給されるといった例があります。

特に東京都内をはじめとする家賃の高い都市部では、この制度を積極的に取り入れることで、若手保育士の就業を後押ししています。

また、独自の家賃補助を上乗せしている自治体も存在し、地域によって支援の厚みが異なります。

こうした住宅支援があることで、生活基盤の安定を図ることができ、安心して保育現場に従事できる環境が整うのです。

処遇改善手当(自治体独自の取り組み)

最後にご紹介するのは、自治体が独自に導入している処遇改善手当です。

これは、基本的な給与や賞与に加えて、一定の補助金が上乗せされる制度で、保育士の待遇向上を目的とした施策の一つです。

この手当は、保育士不足が顕著な地域や、待機児童の多いエリアにおいて導入されていることが多く、特に首都圏ではよく見られる支援策です。

制度の具体的な内容や支給額、条件などは自治体ごとに異なりますが、2023年(令和5年)時点での最新の取り組み状況は、「保育士の処遇改善手当ての額や支給条件、現状をわかりやすく解説!」などの情報媒体でも紹介されています。

このように、保育士の仕事に見合った報酬を得られる環境づくりは、職場への定着率を高める効果も期待されており、今後も継続的な支援が求められる分野となっています。

以上が、保育士の人手不足を解消するための自治体制度についてのお話でした。

続いて、保育士不足を防ぐために、各保育園が取り組めることについてお話していきます。

保育士の人手不足を防ぐために、各保育園が取り組めること

これまで、国や地方自治体による支援制度について紹介してきました。

しかし、保育園を運営する事業者にも、保育士に人手不足を解消するためにできる取り組みは数多くあります。

例えば、以下のような施策が考えられます。

  • 保育士の待遇を改善すること
  • 働きやすい職場環境を整備すること
  • 保育士にとって魅力的な保育園づくりを目指すこと

これから、具体的な事例を交えながら、保育園で実施できる対策について詳しく説明します。

個人の保育士だけでは取り組めないこともありますが、「こうした園もあるのか」と知ることで、新たな視点が得られるかもしれません。

また、自身が勤める職場と照らし合わせながら、「自分にもできることはないか」と考えるきっかけにもなるでしょう。

保育士の待遇を改善する

まず最初に取り上げたいのは、保育士の待遇改善についてです。

これは、保育士の処遇を見直し、特に賃金の向上を目指す取り組みとなります。

給与の引き上げは、シンプルでありながら非常に効果的な対策といえるでしょう。

賃金アップのためには、国や自治体の支援制度を最大限に活用することが重要です。

たとえば、国が実施している「処遇改善等加算」の制度や、自治体独自の「保育士手当」などが該当します。

ただし、これらの制度を活用するには、保育園側が主体となって情報を収集し、必要な手続きを行う必要があります。

受け取れる可能性のある補助金はすべて漏れなく申請できるよう、常に最新の情報をチェックしておくことが求められます。

さらに、補助金を受け取った後には、園内でその配分方法を工夫することが大切です。

たとえば、保育士の評価制度を導入し、その評価に応じて給与を調整することで、公平かつ効果的な資金の活用が可能になります。

こうした仕組みがあることで、努力や成果がしっかりと認められる環境が整い、保育士自身のモチベーション向上にもつながっていくでしょう。

働きやすい労働環境の整備

次に、保育士が無理なく働けるような労働環境を整える取り組みも、非常に重要です。

具体的には、休暇の確保や残業の軽減などが挙げられます。

労働環境の改善には、以下のような対策が効果的です。

  • 保育業務の見直しと業務効率化
  • 人員体制に余裕を持たせる

業務の見直しと効率化

保育士の業務には、掃除や片付け、洗濯、書類作成、保護者対応、壁面装飾の制作など、多岐にわたる作業が含まれます。

これらの業務が「昔からの慣習だから」と漫然と続けられている場合、保育士の負担は軽減されません。

まずは業務内容を一度棚卸しし、優先順位を見直してみましょう。

必要性の低い作業は削減したり、方法を変更したりすることで、業務量を減らすことが可能です。

たとえば、出退勤の記録を電子化して集計時間を短縮したり、連絡帳をアプリで共有することで、保護者とのやり取りを効率化している園もあります。

また、壁面装飾を保育士が一方的に制作するのではなく、こどもたちの作品を中心に飾るスタイルへと変更する園も増えてきました。

余裕のある人員配置

保育士の配置についても、最低基準を満たすだけでは日々の業務に支障が出ることがあります。

特に、体調不良や急な休みなどに対応するためには、ある程度の余裕を持った人員配置が欠かせません。

保育士資格を持たない方でも保育補助として従事できる「子育て支援員」などの人材を活用することも一つの手段です。

多様な人材を組み合わせることで、無理のない職場環境が実現しやすくなります。

魅力ある保育園を目指す

3つ目のポイントは、保育士にとって「ここで働きたい」と思えるような魅力のある保育園をつくることです。

以下のような取り組みが、園全体の雰囲気や職場の魅力を高める要因になります。

  • 園が掲げる理念や目標、保育の方向性を全職員と共有する
  • 定期的に保育に関する意見交換や話し合いの場を設ける
  • 保育士のスキルアップを支援する研修や外部講座への参加を奨励する

保育士の仕事は、未来を担うこどもたちを育てるという、大変意義のあるものです。

しかし、職場に魅力が感じられなかったり、やりがいが見えなかったりすると、やる気を失ってしまうこともあります。

「こどもたちの幸せのためには、まず職員が幸せであるべき」という考えを園全体で共有することで、自然と魅力的な保育園づくりにつながっていくでしょう。

現在働いている職場でどのような取り組みがなされているかを知ることはもちろん、将来的に転職を検討する際にも、園の姿勢や方針を確認しておくことはとても大切です。

以上が、保育士の人手不足を防ぐために、各保育園が取り組めることについてのお話でした。

最後に、保育士不足を防ぐために、保育士個人ができることについてお話していきます。

保育士の人手不足を防ぐために、保育士個人ができることとは?

現在、多くの地域で保育士の人材不足が問題視されていますが、この問題に対して取り組むべきは、国や地方自治体、あるいは保育施設の経営者だけではありません。

実際に現場で働いている保育士一人ひとりの行動も、保育士不足の解消に向けた大切な一歩になります。

ここでは、保育士自身ができる人手不足への対策として、以下のような取り組みをご紹介します。

  • 自身の働き方を見直す
  • 新人や後輩の育成に積極的に関わる
  • 同じ職場で働く仲間を大切にする

自分の働き方を見直して、業務効率を高める

まず最初に取り組めるのは、自分自身の仕事のやり方を振り返り、改善できる点がないかを探してみることです。

これは、経験年数に関わらず、すべての保育士が取り組めるシンプルながらも重要なステップです。

たとえば、日々の業務の流れを「見える化」することで、自分の仕事にどれだけ時間がかかっているのかを把握しやすくなります。

また、業務マニュアルを作成したり、共有できるフォーマットを整えることで、作業の重複やミスを減らすことにもつながります。

自分ひとりで抱え込まず、改善のアイデアを会議などで提案し、周囲の意見も取り入れながら取り組んでいくことで、職場全体の効率向上や働きやすさにも良い影響を与えることができるでしょう。

結果として、離職率の低下や職場定着率の向上に結びつき、保育士不足の解消にも貢献できるのです。

新人や後輩を支え、育てていくことの大切さ

次にご紹介するのは、新人や後輩保育士の育成に積極的に関わることです。

ある程度の経験を積んだ保育士にとって、自分の知識や技術を次世代に伝えていくことは、現場を支えるうえで欠かせない役割となります。

新人職員は、業務や人間関係に不安を感じやすいものです。

そのようなとき、先輩保育士が積極的に声をかけ、日常のちょっとした相談に耳を傾けてあげるだけでも、大きな安心感を与えることができます。

また、口頭での指導に加えて、自分が率先して前向きに働く姿を見せることも、良いお手本となり、後輩にポジティブな影響を与えることができるでしょう。

新人が安心して働ける職場づくりは、長く働き続けられる環境づくりにもつながります。

職場の仲間を大切にし、協力し合う姿勢を持つ

3つ目の取り組みは、同じ保育園で働く仲間を大切にするという姿勢です。

保育に対する考え方やアプローチが多少異なっていても、「こどもたちの健やかな成長を支えたい」という想いは、きっと共通しているはずです。

だからこそ、互いに違いを認め合いながら、感謝と尊重の気持ちを持って接することが大切です。

職場で交わす「ありがとう」や「お疲れさま」という言葉は、思っている以上に相手の心を支えてくれます。

忙しい日々の中でも、お互いを思いやる一言をかけ合うことが、働きやすく温かい職場環境を築いていく第一歩となります。

このような積み重ねが、「ここでずっと働きたい」と思える職場づくりに直結し、結果として保育士不足の防止にも大きく寄与することになるのです。

以上が、保育士の人手不足を防ぐために、保育士個人ができることについてのお話でした。

保育士不足の問題は、給与や労働環境といった個人の働きやすさだけでなく、保育制度全体の課題とも深く関係しています。

すぐにすべてを解決するのは難しいかもしれませんが、一人ひとりが声を上げたり、小さな取り組みを積み重ねたりすることで、少しずつ環境を変えていくことは可能です。

保育士として働く方が安心して長く続けられる職場をつくることは、こどもたちの未来を守ることにもつながります。

この記事が、保育士不足の現状を理解し、解決に向けて前向きな一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。