言語聴覚士に似た仕事は？他種職との違いや仕事内容について
言語聴覚士（ST）は、ことばや嚥下（飲み込み）のリハビリを専門とする職業ですが、リハビリや医療分野には言語聴覚士に似た仕事がいくつかあります。
「言語聴覚士と理学療法士・作業療法士の違いは？」「言語聴覚士に似た仕事は？」と迷っている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、言語聴覚士に似た職種の仕事内容や役割の違いを詳しく解説します。
どの仕事が自分に合っているかを考える参考にしてください。
言語聴覚士について
英語では「Speech-Language-Hearing Therapist」と表記され、日本ではその頭文字を取って「ST」と略されます。
患者さんの対象は、こどもから高齢者まで幅広く、例えば以下のようなケースに対応します。
- 言語の発達が遅れているこども
- 脳卒中後の後遺症による失語症の方
- 加齢や病気による嚥下（飲み込み）障がいのある高齢者
言語聴覚士は、患者さん一人ひとりの症状に合わせたリハビリプログラムを作成し、回復をサポートしていきます。
主なリハビリ内容
- 構音訓練：口の動きのトレーニングや発音練習
- 言語訓練：言葉の復唱や教材を活用した言語能力の向上
- 嚥下訓練：食べ物を使わない基礎的な訓練や摂食リハビリ
言語聴覚士は専門的な知識と技術を活かし、一人ひとりの症状や状況に応じたリハビリプランを立て、実践していく職業です。
専門性の高い仕事であり、患者さんやその家族から信頼される存在となります。
活躍の場所
言語聴覚士は、病院や診療所といった医療機関をはじめ、介護老人保健施設、地域包括支援センター、障がい者支援施設、小児療養センター、特別支援学校など、さまざまな現場で活躍できます。
医療・福祉・教育の各分野で、ことばや聴覚、嚥下に関する支援を行う専門職です。
国家資格・合格率について
言語聴覚士として働くためには、国家資格の取得が必須です。
受験資格を得るためのルートは、高校卒業者と大学卒業者で異なります。
高校を卒業した方は、文部科学大臣が指定する大学・短期大学、または都道府県知事が認定する専門学校（言語聴覚士養成所）を修了する必要があります。
一方、大学を卒業している方は、指定の大学や大学院の専攻科、または2年制の専修学校を修了することで受験資格を得ることが可能です。
試験は年に1回実施されており、令和5年に行われた「第25回言語聴覚士国家試験」の合格率は67.4％でした。
受験者数は2,515名、そのうち1,696名が合格しています。
以上が、言語聴覚士についてのお話でした。
続いて、言語聴覚士に似た仕事である作業療法士についてみていきましょう。
言語聴覚士に似た仕事① 作業療法士
英語では「Occupational Therapist」と表記され、「OT」と略されます。
理学療法士が「立つ」「歩く」といった基本的な運動機能の回復を担当するのに対し、作業療法士は「手を使う動作」や「社会適応能力の向上」に関わるリハビリを提供します。
OTの主なリハビリ内容
- 日常生活動作の訓練：食事、着替え、入浴、トイレの動作など
- 手段的日常生活動作の訓練：調理、洗濯、掃除、金銭管理、買い物など
- 社会適応支援：就学・就職支援、地域活動への参加
作業療法士は、患者さんの状態や希望に寄り添いながら、一人ひとりに合ったリハビリプランを作成します。
また、必要に応じて補助器具や福祉用具の提案を行うなど、日常生活をよりスムーズに過ごせるよう支援します。
活躍の場所
作業療法士は、病院やクリニックといった医療機関に加え、児童発達支援センターや障がい福祉サービス事業所などの福祉施設、介護老人保健施設、就業・生活支援センター、地域包括支援センター、特別支援学校など、さまざまな分野で活躍することができます。
身体機能の回復だけでなく、日常生活の動作や社会参加の支援を行うため、医療・福祉・教育といった幅広い領域で求められています。
国家資格・合格率について
作業療法士として働くためには、国家試験に合格することが必須です。
受験資格を得るには、大学・短期大学・専門学校の養成課程で3年以上学び、必要なスキルを身につけることが求められます。
試験は年に1回実施され、令和5年に行われた「第58回作業療法士国家試験」の合格率は83.8％でした。
受験者数は5,719名、そのうち4,793名が合格しています。
以上が、作業療法士についてのお話でした。
続いて、言語聴覚士に似た仕事2つ目の理学療法士についてみていきましょう。
言語聴覚士に似た仕事② 理学療法士
英語では「Physical Therapist」と呼ばれ、「PT」と略されることが一般的です。
理学療法士は、「立つ」「座る」「歩く」 などの基本動作を改善するためのリハビリを担当し、患者さんが自立した生活を送れるようサポートします。
PTの主なリハビリ内容
- 運動療法：歩行訓練、関節の可動域拡大、筋力強化トレーニング
- 物理療法：電気刺激や温熱機器を活用した治療
理学療法士は、患者さんが日常生活をより快適に過ごせるように支援し、運動機能の維持・改善を目指します。
活躍の場所
理学療法士の活躍の場は、病院やクリニック、診療所、大学病院、訪問看護ステーションなどの医療機関だけにとどまりません。
特別養護老人ホームやデイケアセンターなどの高齢者向け施設、さらには福祉施設や行政機関、教育関連施設、スポーツ分野に携わる施設でも、理学療法士の専門知識が求められています。
国家資格・合格率について
理学療法士になるには、理学療法士国家試験に合格することが求められます。
受験資格を得るには、大学・短期大学・専門学校などの養成課程で3年以上学び、必要な知識と技術を習得することが必要です。
試験は毎年1回行われ、令和5年に実施された「第58回理学療法士国家試験」の合格率は87.4％でした。
受験者数は12,948名で、そのうち11,312名が合格しています。
以上が、理学療法士についてのお話でした。
続いて、言語聴覚士に似た仕事の番外編として、看護師の仕事についてお話していきます。
言語聴覚士に似た仕事番外編 看護師
どちらも患者さんの健康回復や生活支援に関わる仕事ですが、具体的な役割や資格の取得方法には違いがあります。
仕事内容
看護師は、医師の指示のもとで診療の補助や患者さんのケアを行う医療専門職です。
主な業務内容は以下の通りです。
- 患者さんの健康管理（バイタルサイン測定・血圧・体温・脈拍チェック）
- 診療補助（注射・点滴・採血などの医療行為の補助）
- 患者さんのケア（食事・排泄・入浴などの日常生活のサポート）
- 医療機器の管理（人工呼吸器・点滴ポンプなどの操作・管理）
- 家族への対応（病状や治療方針の説明、精神的サポート）
言語聴覚士との違いとして、言語聴覚士はリハビリを通じて患者さんの機能回復を目指すのに対し、看護師は全身の健康管理や医療行為を担う点が挙げられます。
活躍の場所
看護師は、病院をはじめとする多くの医療・福祉施設で働いています。
代表的な職場は以下の通りです。
病院（総合病院・大学病院・クリニック）
病棟や外来で、患者の治療やケアを担当します。
救急医療や手術室での専門的な役割を担うこともあります。
介護施設（特別養護老人ホーム・介護老人保健施設）
高齢者の健康管理を行い、介護スタッフと連携しながら日常生活をサポートします。
訪問看護
自宅療養中の患者さんを訪問し、医療ケアやリハビリを提供します。
言語聴覚士とも連携しながら、嚥下（えんげ）障がいのある患者のサポートを行うこともあります。
保育園・学校・企業
健康管理を担当する「保育園看護師」「スクールナース」「産業看護師」として働くケースもあります。
このように、看護師は医療・福祉・教育など幅広い分野で活躍できる職種です。
国家資格・合格率について
看護師になるためには、国家資格である「看護師免許」を取得する必要があります。
資格取得までの流れは以下の通りです。
1. 看護師養成課程を修了する
看護師の国家試験を受験するためには、以下のいずれかの養成機関で必要なカリキュラムを修了する必要があります。
- 大学（4年制）
- 短期大学（3年制）
- 専門学校（3年制）
2. 国家試験を受験する
養成課程を修了後、看護師国家試験を受験し、合格すれば「看護師免許」が取得できます。
3. 国家試験の合格率
看護師国家試験の合格率は例年90%前後と比較的高めですが、試験範囲が広いため、しっかりとした学習が必要です。
以上が、言語聴覚士に似た仕事の一つ、看護師という仕事についてのお話でした。
看護師は、医療現場で患者の健康をサポートする重要な職種です。
言語聴覚士と同じく、リハビリや生活支援に関わる場面も多くありますが、言語聴覚士が「ことば・嚥下リハビリの専門職」であるのに対し、看護師は「医療全般のケア」を担う点が大きな違いです。
看護師の資格を取得すると、病院だけでなく介護施設や訪問看護、学校など、さまざまな分野で活躍することができます。
もし「言語聴覚士に興味があるけど、より広い医療分野にも携わりたい」と考えているなら、看護師の道も視野に入れてみてはいかがでしょうか？
次に、これまでご紹介してきたリハビリ職と看護師の違いを表にまとめましたのでご覧ください。
リハビリ職と看護師の違いを比較！進路決定の参考に
ここでは、代表的な3つのリハビリ職（言語聴覚士・理学療法士・作業療法士）と看護師の仕事内容や特徴を比較し、それぞれの違いを詳しく解説します。
リハビリ職と看護師の比較表
| 職種 | 言語聴覚士 (ST) | 理学療法士 (PT) | 作業療法士 (OT) | 看護師 (NS) |
|---|---|---|---|---|
| 対象 | 言語・聴覚・音声機能の障がい | 身体の機能障がい | 身体・精神の機能障がい | 身体・精神の障がい全般 |
| 主な役割 | 言語や発声機能の回復支援、嚥下訓練、補聴器装用訓練 | 基本動作（起き上がる・歩くなど）の回復、筋力強化 | 応用動作（手指の細かい動作）の改善、社会適応支援 | 診療補助、バイタルチェック、注射・点滴、患者のケア |
| 国家試験合格率（令和5年） | 67.4％ | 87.4％ | 83.8％ | 90.8％ |
| 資格者数 | 約3万人 | 約16万人 | 約9万人 | 約129万人 |
| 平均年収 | 約430万円 | 約430万円 | 約430万円 | 約508万円 |
| 開業の可否 | 開業可能（言語訓練・構音訓練など） | 開業不可（医師の指示が必要） | 開業不可（医師の指示が必要） | 開業可能（訪問看護・介護施設など） |
リハビリ職と看護師は、それぞれ対象とする分野や仕事内容が異なります。
リハビリ職は専門的な機能回復をサポートする役割があり、一方の看護師は医療全般に関わる業務を担当します。
自分の興味や適性に合わせて、どの職種が最適かをじっくり考え、納得のいく選択をしましょう！
以上が、リハビリ職と看護師の違いでした。
続いて、それぞれの仕事の給料面についてみていきましょう。
それぞれの仕事の給料面について
リハビリ職の平均年収と労働環境
※厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より（有効求人倍率のみ令和2年調査）
| 職種 | 月間労働時間 | 平均年収 | 平均年齢 | 有効求人倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 言語聴覚士 | 161時間 | 430.7万円 | 34.7歳 | 2.77 |
| 理学療法士 | 161時間 | 430.7万円 | 34.7歳 | 3.79 |
| 作業療法士 | 161時間 | 430.7万円 | 34.7歳 | 3.59 |
このデータは全国平均の数値ですが、3職種の年収に大きな差は見られませんでした。
これは、賃金構造基本統計調査において、リハビリ職全体がひとつのカテゴリーとして扱われていることが要因の一つと考えられます。
給与の違いと影響する要因
実際の給与水準は、勤務する施設や地域によって変動します。
病院、介護施設、高齢者向け施設など、職場ごとの経営方針や運営規模によって待遇に差が生じることがあります。
そのため、就職活動の際には、給与体系や福利厚生などをよく確認することが重要です。
また、介護老人福祉施設や介護老人保健施設などでは、「介護職員等特定処遇改善加算」が支給されることがあります。
この加算制度は、介護職の給与水準を向上させるための国の施策ですが、一部の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士にも適用される場合があります。
資格選びのポイント
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の3つの資格は混同されがちですが、年収の違いはそれほど大きくありません。
そのため、収入面だけで判断するのではなく、「自分がどの分野で活躍したいのか」「どのような患者と関わりたいのか」といった視点で選ぶことが大切です。
各資格の業務内容をしっかり理解し、自分に合ったキャリアを見つけましょう。
以上が、それぞれの給料面についてでした。
最後に、あなたはどの仕事に向いているか、それぞれの仕事の適性についてみていきましょう。
あなたはどの仕事に向いている？
以下は、各職種に向いている人の特徴をまとめたものです。
言語聴覚士（ST）に向いている人
- 人と話すことが好き
- 忍耐強く取り組める
- 相手の様子を細かく観察できる
- 共感力がある
- 知識を深めることが好き
理学療法士（PT）に向いている人
- 人とのコミュニケーションが得意
- 辛抱強く努力できる
- 細かな動きの変化に気づける
- 身体を動かすことが好き
- 前向きで明るい性格
作業療法士（OT）に向いている人
- 会話を通じて人と関わるのが好き
- じっくりと人を支えることができる
- 相手のために行動することにやりがいを感じる
- 柔軟な発想ができる
- 創造的なアイデアを考えるのが得意
言語聴覚士（ST）の学びと適性
リハビリの仕事では、医療の基礎知識が求められます。
言語聴覚士も理系の要素が強い職業と認識されがちですが、実際には首から上の解剖学が中心で、覚える筋肉の数は約30と、理学療法士の3分の1程度です。
また、言語聴覚士は働く分野によって、小児の発達支援や心理学、言葉の発達に関する知識も必要になります。
そのため、文系出身の人でも得意分野を活かしながら活躍することができます。
2023年の国家試験の合格率は67%とされており、理系・文系を問わず、着実に学び続ける姿勢が求められます。
話すことが苦手な人でも、患者さんに向き合う真摯な姿勢があれば十分に活躍できる仕事です。
理学療法士（PT）の学びと適性
理学療法士は、歩行や運動機能の回復を支援する役割を担います。
そのため、身体の全体構造を理解する必要があり、100以上の筋肉や骨の名称を覚えることが求められます。
身体の仕組みに興味がある人には、学びやすい分野でしょう。
また、リハビリの現場では、医師や看護師と連携しながら治療を進めるため、チームワークを大切にできる人が向いています。
加えて、患者さんのちょっとした動作の変化を読み取る観察力も求められます。
作業療法士（OT）の学びと適性
作業療法士は、一人ひとりの患者さんと長期間にわたって関わることが多い職種です。
そのため、人とのコミュニケーションが好きで、根気強く支援できる人に向いています。
また、患者さんの状態や生活環境に合わせたリハビリを提供するため、柔軟な発想力や創造力が求められます。
アイデアを活かしながら、楽しく効果的なリハビリを提案できる人に適した仕事です。
以上が、それぞれの仕事の適性についてのお話でした。
言語聴覚士に似た職種には、理学療法士・作業療法士・看護師などがあり、それぞれ異なる役割を担っています。
言語聴覚士は、ことばや飲み込みのリハビリに特化しており、患者さんのコミュニケーションや生活の質を向上させる専門職です。
他職種との違いを理解することで、自分に合った仕事が見えてきます。
「どの分野で活躍したいのか」「どのような支援をしたいのか」を明確にし、自分に合ったキャリアを見つけていきましょう！
