言語聴覚士の就職先は?代表的な働く場所とそれぞれの割合について

言語聴覚士(ST)は、医療・福祉・教育など幅広い分野で活躍できる専門職です。
しかし、「具体的にどのような職場があるの?」「どの分野に就職する人が多いの?」と気になる方も多いのではないでしょうか。
実際に、言語聴覚士の就職先は病院やリハビリ施設だけでなく、介護施設、教育機関、研究機関など多岐にわたります。
また、それぞれの就職先には特徴があり、求められるスキルや業務内容も異なります。
この記事では、言語聴覚士の代表的な就職先と、それぞれの就業割合について詳しく解説します。
自分に合った職場を見つけるための参考にしてください。
言語聴覚士の仕事内容
「言語」という名称がついていますが、言葉の問題だけでなく、食事や飲み込みの障害(嚥下障がい)にも対応します。
英語では 「Speech-Language-Hearing Therapist」 と呼ばれ、略して 「ST」 と表記されることが一般的です。
話す・聞く能力を高めるリハビリ
言語聴覚士が行うリハビリの中心となるのは、「話す」 と 「聞く」 能力の向上です。
特に、言葉での感情表現が難しいこどもや、コミュニケーションが困難な方にとって、これらの障害は日常生活に大きな影響を与えることがあります。
「話す」「聞く」ことが難しくなる主な原因には、以下のようなものがあります。
- 言語障がい(発達障がい、失語症、認知症 など)
- 聴覚障がい(伝音性難聴 などの疾患)
- 心理的要因(ストレスやトラウマ など)
言語聴覚士は、患者さんが抱える問題の原因を特定するための検査を行い、一人ひとりに合ったリハビリプログラムを作成し、適切な訓練を実施します。
医療チームとの連携が重要
言語聴覚士のリハビリは、単独で完結するものではなく、他の医療職と密接に連携しながら進めることが重要 です。
関わる職種の例として、以下が挙げられます。
- 医師(病状の診断や治療方針の決定)
- 看護師(日常のケアや経過観察)
- 理学療法士(身体の運動機能の改善)
- 作業療法士(日常生活の動作訓練)
例えば、食事のリハビリを行う際には、手や身体の運動機能を理解することが重要 です。
適切なアプローチを取るためにも、理学療法士や作業療法士と連携し、最適なリハビリ計画を立てる必要があります。
また、患者さんの病状や現在の状態を正しく把握し、他の専門職と情報を共有することで、よりスムーズなリハビリを進めることができます。
言語聴覚士はチーム医療の一員として、他のスタッフと協力しながら、患者さんの状態を改善・維持する役割を担っています。
以上が、言語聴覚士の仕事内容についてでした。
続いて、言語聴覚士の就職先についてみていきましょう。
言語聴覚士の就職先について
そのため、活躍できる職場は多岐にわたります。
ここでは、言語聴覚士の代表的な就職先を4つ紹介します。
医療機関
医療機関は、言語聴覚士が最も多く活躍している職場の一つです。
総合病院や大学病院、専門病院、クリニックなど、規模や診療科によって仕事内容が異なります。
医療機関での言語聴覚士の特徴
- 言語聴覚士の約7割が医療機関に勤務
- リハビリテーション科をはじめ、耳鼻咽喉科、形成外科、口腔外科、小児科など、さまざまな診療科で活躍
- チーム医療の一員として多職種と連携
- 社会復帰のための相談・支援を行う
- 在宅医療に関わるケースも増加
近年、在宅医療の需要が拡大しており、訪問リハビリを行う言語聴覚士の需要も高まっています。
また、急性期病院では発症直後の患者への対応が中心となり、回復期リハビリテーション病院では社会復帰を目的としたリハビリが主な業務となるなど、施設によって仕事内容に違いがあります。
医療機関で働くことで、多様な患者と接しながら経験を積むことができ、専門性を高めることが可能です。
スキルアップを目指したい方におすすめの環境と言えるでしょう。
介護福祉施設
介護福祉施設は、医療機関に次いで多くの言語聴覚士が活躍する職場です。
高齢者の増加に伴い、摂食・嚥下障害を抱える方のサポートが求められています。
介護福祉施設での言語聴覚士の特徴
- 摂食・嚥下障がいを持つ高齢者の支援が中心
- 加齢による機能低下への対応が多い
- 機能回復だけでなく、食事の楽しさを取り戻す支援も重要
高齢になると、食べ物を飲み込む力が弱まり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
言語聴覚士は、こうした摂食・嚥下障がいのリハビリを担当し、安全に食事をとれるように訓練を行います。
また、リハビリの一環としてレクリエーションを企画することもあり、創造力を活かせる場面も多い職場です。
介護福祉施設での経験を積むことで、加齢に伴う言語・嚥下機能の変化について深く学ぶことができます。
こどもの福祉施設・教育機関
言語聴覚士は、児童発達支援センターや放課後等デイサービスなどのこども向け福祉施設、さらには小中学校や特別支援学校で活躍することもできます。
こどもの福祉施設・教育機関での言語聴覚士の特徴
- 発達障がいや知的障がい、自閉症などを抱えるこどもの支援が中心
- 学習・生活面での指導も行う
- 訓練を楽しく進めるための工夫が求められる
- 幼稚園や保育所の支援を担当する場合もある
こどもの場合、発達障がいや知的障がい、自閉症などが原因で言語発達の遅れが見られることがあります。
言語聴覚士は、個々のこどもに合わせた訓練や指導を行い、スムーズなコミュニケーションができるようサポートします。
また、遊びを取り入れた訓練や、こどもが楽しめる環境づくりも重要な役割の一つです。
こどもと接することが好きな方や、教育に関心のある方に向いている職場と言えます。
さらに、手話通訳士の資格を取得することで、聴覚障害のあるこどもの支援にも活かすことができます。
保健所・保健センター
地方自治体が運営する保健所や保健センターでも、言語聴覚士が活躍しています。
医療機関や福祉施設と比べると求人数は少ないものの、安定した収入や福利厚生の充実から人気の職場です。
保健所・保健センターでの言語聴覚士の特徴
- 相談業務が中心
- 子育て相談窓口がある施設も多い
- 公務員待遇のため、安定した収入と福利厚生が魅力
保健所や保健センターでの主な業務は、言語や発達に関する相談対応です。
乳幼児健診や子育て相談などを通じて、言語発達の遅れが見られるこどもや、コミュニケーションに不安を抱える保護者の支援を行います。
また、病気や事故の後遺症による言語障害に関する相談を受けることもあり、幅広い知識が求められます。
求人数は限られますが、安定した職場環境を希望する方には魅力的な選択肢となるでしょう。
就職先の割合
日本言語聴覚士協会の調査によると、言語聴覚士の約71.7%が病院などの「医療機関」に勤務しています。
病院以外の勤務先としては、「介護老人保健施設(老健)」や「特別養護老人ホーム(特養)」などの福祉施設が挙げられます。
また、ごく少数ではありますが、「学校教育機関」で働く言語聴覚士も存在します。
このように、7割以上の言語聴覚士が医療機関で働いていることから、多くの養成校卒業生は病院などの医療機関へ就職する傾向があると考えられます。
言語聴覚士が対象とする領域
では、言語聴覚士が主に対応する領域にはどのようなものがあるのでしょうか。
日本言語聴覚士協会の調査によると、言語聴覚士が扱う主な領域は「摂食嚥下」「成人言語」「発声・発語」であり、小児領域や聴覚領域を専門とする割合は比較的少ないことがわかっています。
このように、多くの言語聴覚士が医療機関で働き、成人のリハビリを中心に担当していることが特徴です。
しかし、養成校入学時に成人領域での就職を希望していた学生ばかりではないという点も指摘されています。
実際に、次のような報告があります。
“学校教育等での勤務を希望しているにもかかわらず、医療機関の求人が大多数を占めるため、やむなく就職する学生も少なくありません。”
(出典:「変化を遂げる言語聴覚士教育」医学書院)
このように、言語聴覚士の就職先が成人領域に偏りがちであることが課題として挙げられています。
新たに言語聴覚士が活躍する就職先
れまで、言語聴覚士の就職先が特定の領域に偏っている現状について説明しましたが、近年、新たな分野でも言語聴覚士が活躍する機会が増えています。
具体的には、次のような分野が挙げられます。
- 聴覚領域:補聴器メーカーにおける補聴器のフィッティングや営業
- 小児領域:発達支援を行う放課後デイサービス
ただし、これらの分野では即戦力としてのスキルが求められるため、新卒採用よりも中途採用が多い傾向にあります。
言語聴覚士の活躍の場は病院だけにとどまらず、少しずつ広がっています。将来的にどの分野で活躍したいのかを考えながら、自分に合ったキャリアプランを選んでいくことが重要です。
以上が、言語聴覚士の就職先についてのお話でした。
続いて、言語聴覚士が自分に合った就職先や働く場所を選ぶために必要なことをご紹介します。
言語聴覚士が自分に合った就職先や働く場所を選ぶために
採用担当者の視点から考える「言語聴覚士の就職先の選び方」のポイントは、以下の3つです。
- 対象とする領域
- 就職する地域
- 教育(指導)体制の充実度
言語聴覚士の新卒の就職先は、主に病院などの医療機関が中心です。
本記事では、医療機関への就職を前提に、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
対象とする領域
言語聴覚士が関わる領域は、成人、小児、聴覚リハビリなど幅広いため、就職先の病院がどの領域を対象としているのかを把握することが重要です。
小児領域については、成人のリハビリを主とする病院でも、外来で小児の臨床を行っている場合があります。
そのため、自分が希望する領域を明確にした上で、適した病院を選ぶことが大切です。
また、病院の機能にも注目しましょう。
医療機関には「急性期」「回復期」「生活期」という3つの機能があり、それぞれリハビリの役割や求められる働きが異なります。
特に成人領域を希望する場合は、病院がどの機能に重点を置いているのかを確認することが重要です。
就職する地域
働く地域を決めることは、言語聴覚士に限らず就職活動において大切なポイントです。
また、「言語聴覚士でも異動や転勤はあるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
これについては、「病院によって異なる」が答えになります。
近年、公立病院だけでなく、民間の病院でも系列病院やグループ施設への異動が行われるケースが増えています。
そのため、希望する病院に異動や転勤の可能性があるかを事前に確認しておくことが大切です。
教育体制の充実度
言語聴覚士を含む医療専門職は、養成校を卒業した時点では「即戦力」として完全に独り立ちできるわけではありません。
そのため、就職後の教育・指導体制がどの程度整っているかは、成長やキャリア形成に大きく関わる重要な要素です。
生涯学習の機会には、職場でのOJT(実務を通じた学習)と外部研修の2つがあります。
就職を希望する病院がどのような指導体制を整えているのか、また研修や勉強会への参加支援があるのかを確認しておくとよいでしょう。
以上が、言語聴覚士が自分に合った就職先や働く場所を選ぶために必要なことでした。
続いて、言語聴覚士を目指す方が知っておきたいことをお伝えします。
言語聴覚士を目指す方が知っておきたいこと
言語聴覚士は医療機関だけでなく、介護施設や教育機関など幅広い現場で活躍できるため、他の職種で培った経験やスキルが役立つ場面も少なくありません。
ここでは、言語聴覚士の現在の需要と将来性、そして資格以外に求められるスキルについて詳しく解説します。
言語聴覚士の需要と将来性について
厚生労働省が2016年に発表した資料によると、全国約1,000の医療機関や介護施設を対象にした調査で、言語聴覚士の勤務状況は以下のようになっています。
- 病院で勤務する言語聴覚士:3,124人
- 介護保険施設などで勤務する言語聴覚士:315人
年齢別では、20~40代の割合が最も多く、全体の約8割を占めています。
(出典:厚生労働省「理学療法士・作業療法士・言語聴覚士需給調査」/https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000120212_6.pdf)
また、「言語聴覚士の人員数は充足しているか?」という質問に対し、「基準上は充足している」と回答した施設は82.1%に達したものの、「運営上(患者の状況に応じて必要な人員が確保できている)」と答えた施設は41.3%にとどまっています。
これは、多くの施設が人員基準は満たしているものの、実際の現場では十分な言語聴覚士を確保できていないと感じていることを示しています。
さらに、「2025年までに言語聴覚士の雇用を増やす予定があるか?」という質問に対し、「増やす」と答えた施設は33.7%で、「減らす」と回答した施設はわずか0.2%でした。
このデータや日本の高齢化の進行を考慮すると、言語聴覚士の需要は今後も増えていくと予想されます。
国家資格以外に必要とされる能力
言語聴覚士は、患者さんや利用者さんだけでなく、ご家族とも密にコミュニケーションを取りながら、医師や看護師など他職種と連携し、リハビリを進めていく必要があります。
STがサポートする主な障がいには、以下の3つがあります。
対象者 | 症状 | サポート内容 |
---|---|---|
言語障がい | – 高次脳機能障がいのある方 – 言語発達障がいのあるこども | – 正しい発音の指導 – スムーズな会話のトレーニング – 読み書きの訓練 |
音声障がい | – 声帯に病変がある方 – 声帯を損傷した方 | – 発声訓練 |
嚥下障がい | – 筋力が低下した方 – 神経や筋肉に麻痺がある方 | – 噛む・飲み込む動作の訓練 – 食事指導 – 口腔ケア |
こうしたリハビリ業務を行う上で、特に重要になるのがコミュニケーション能力です。
言葉がうまく話せなかったり、飲み込むことが難しかったりする患者さんは、不安やストレスを抱えていることが少なくありません。
そのため、リハビリを拒否するケースもあります。
言語聴覚士には、患者さんやご家族の気持ちに寄り添いながら、安心してリハビリに取り組める環境を作る力が求められます。
また、医師や看護師、理学療法士、作業療法士などと連携しながら治療を進めていくため、チーム医療における協調性も不可欠です。
指導や訓練がうまく進まない場合には、状況に応じてアプローチを変えたり、長期的なサポートを続けたりする柔軟性や忍耐力も必要になるでしょう。
以上が、言語聴覚士を目指す方が知っておきたいことでした。
言語聴覚士の就職先は、病院やリハビリ施設をはじめ、介護施設、教育機関、研究機関、企業など多岐にわたります。
特に病院勤務の割合が高いものの、高齢化社会の進行に伴い、介護施設や訪問リハビリの需要も増加しています。
また、働く環境によって求められるスキルや業務内容が異なるため、自分の適性や将来のキャリアプランを考慮しながら就職先を選ぶことが重要です。
「どんな職場が自分に合うのか?」をじっくり考え、理想のキャリアを実現できる就職先を見つけていきましょう。