高齢化社会が進む中、医療や介護の現場ではリハビリを必要とする方が増えており、理学療法士の重要性はますます高まっています。

しかし、本当に今後も需要が拡大し続けるのか、それとも将来的には飽和してしまう可能性があるのか、不安を感じている人も少なくありません。

本記事では、理学療法士を取り巻く人手不足の現状や将来性、需要の変化をわかりやすく解説していきます。

理学療法士が人手不足と言われる理由や、実際にどのような職場でニーズが高まっているのかを具体的にご紹介し、今後どのようなキャリアを描けるのかを考えるヒントをお届けします。

理学療法士を目指す方や、すでに資格を持つ方が、将来のキャリアを前向きに捉えられるよう、丁寧に情報をまとめました。

理学療法士の現場は人手不足?

年々増え続けてるはずの理学療法士。

しかし「理学療法士の現場は人手不足」という声がちらほらと聞こえてきます。

それではなぜ、人手不足に陥ってるのでしょうか。

業種によって大きな開きがある

日本理学療法士協会のデータによれば、理学療法士の就職先は病院勤務が半数以上を占めています。

そして、福祉施設は老人福祉施設で1.6%、地域包括支援センターや身体障害者・児童福祉施設については全体の1%未満にとどまっています。

職先 割合
病院勤務 全体の半数以上
老人福祉施設 1.6%
地域包括支援センター 1%未満
身体障害者福祉施設・児童福祉施設 1%未満

需要の面もありますが、この数字からも業種ごとに就職先が偏っていることが分かります。

とりわけ高齢化が進む中、介護分野での需要が高い一方、介護施設への就職希望が少ないため、人手不足が続いているのが現状です。

近年、理学療法士の総数は急増しているため「人手不足とは無縁」と思われがちです。

ですが、実際には就職先が特定の分野に集中しており、十分な人材が確保できていない業種も残されています。

理学療法士の数は年々増えている

日本理学療法士協会の情報によると、平成23年度以降は毎年1万人を超える理学療法士国家試験の合格者が出ています。

そして、令和4年度までに累計で20万人以上の理学療法士(PT)が誕生しています。

平成元年頃は年間合格者がおよそ1000人、累計でも9000人弱だったことをふまえると、この20年間で年間合格者数は10倍、累計合格者数は20倍以上に拡大しているのです。

この流れが続いて、年間1万人以上の新規の理学療法士が増えていけば、10年後には30万人、20年後には40万人規模に達する可能性があります。

年度・時期 年間合格者数 累計合格者数 備考
平成元年頃 約1,000人 約9,000人弱 当時は年間合格者が少なく、累計も1万人未満。
平成23年度以降 毎年1万人以上 国家試験の合格者数が大幅に増加。
令和4年度まで 20万人以上 急激に累計合格者数が拡大。
今後(10年後) 毎年1万人以上(予想) 30万人規模(予想) このままのペースなら約10年で30万人に達する。
今後(20年後) 毎年1万人以上(予想) 40万人規模(予想) 長期的には累計40万人に届く可能性も。

さらに、養成校が今後も増え続けると想定よりも早いペースで増加することもあり得ます。

一方で、理学療法士の総数が現段階で減少に転じる見込みは薄いため、今後も理学療法士の供給が拡大していく傾向は確実だといえるでしょう。

理学療法士が必要とされる仕事は今後増えていく

戦後のベビーブームで生まれた団塊世代が、2025年以降、75歳以上となり後期高齢者になることで、医療や介護の需要はさらに高まると考えられます。

そこで国は、病院や施設だけにとどまらず、住み慣れた地域(在宅)で医療・介護を受けられるよう、各自治体に地域包括支援体制の整備を求めています。

こうした国の施策を受け、地域における医療や介護の役割がますます重要になるため、理学療法士を必要とする声も広がっていくでしょう。

また、「健康寿命」という概念が注目される中、専門性の高い理学療法士による予防的なアプローチを期待する声も増えています。

このように、理学療法士の専門知識を活かした活動は、今後ますます幅広い分野で国民の健康を支える要となると予想されます。

以上が、理学療法士の人手不足についてのお話でした。

次に、今後も必要とされ続ける理学療法士であるために求められることをご紹介していきます。

これからの理学療法士に求められること

現状では、理学療法士という資格自体に年齢や学歴、国家試験の成績などの区別はありません。

とはいえ、需要が減少していく中でこれからの理学療法士に求められることは、自分だけの強みや特化した分野を持つことです。

以下では、今から取り組める具体的な対策をいくつかご紹介します。

資格を取得する

認定理学療法士や専門理学療法士の資格を取得して専門性を高めれば、周囲との差別化につながります。

いずれも日本理学療法士協会が指定するカリキュラムを修了し、必要な試験に合格することで取得可能です。

  • 認定理学療法士: 臨床現場で活かせる技能やスキルを証明する資格
  • 専門理学療法士: 学問分野の発展に貢献できる研究能力を証明する資格

また、理学療法士以外の資格を取得することで、臨床の幅を広げる方法もあります。

たとえば、「福祉住環境コーディネーター」「健康運動実践指導者」「シューフィッター」「義肢装具士」「ケアマネージャー」などが挙げられます。

これらを組み合わせて活用することで、個人のスキルセットに独自性を持たせることができます。

特定の分野を極める

臨床現場で一つの分野に特化し、専門性を深める方法も有効です。

たとえばインソール、テーピング、ウィメンズヘルス、呼吸リハ、心リハなどを極めることで、「この症例ならあの人に頼もう」と、医師や同僚、さらには患者さんからも高い信頼を得られるでしょう。

起業する

理学療法士は医師の指示のもと理学療法を提供する資格のため、開業権はありませんが、理学療法そのものを提供しない事業であれば独立起業が可能です。

最近では、施術サロンや整体院、デイサービスを立ち上げる理学療法士も増加傾向にあります。

さらに、講師として知名度を上げ、セミナー団体を組織して成功するケースも見られます。

ただし、起業には金銭的リスクがあり、経営を軌道に乗せるのは簡単ではありません。

リスクを十分に理解したうえで計画的に進めることが大切です。

以上が、これからの理学療法士に求められることでした。

理学療法士は、高齢化の進行や医療の高度化に伴い、リハビリの需要が増えることで「人手不足」と言われるほど重要視されている職業です。

また、現状、業種ごとに就職先が偏っていることから職場によっては「人手不足」と言われています。

ただし、今後はさらに理学療法士が増える一方で、活躍の場も多様化し、一般企業やスポーツ分野、在宅介護など新たな領域へと広がる可能性も大いにあります。

需要が拡大する中で、理学療法士が一層求められるのは、専門性をさらに深めたり、新しいスキルを身につけたりする柔軟性です。

自分自身の強みを見極め、職場や分野を選択することが、今後のキャリアの安定と発展につながるでしょう。

人手不足の側面だけではなく、将来性や可能性も大きい職業であることを踏まえ、自分に合ったキャリアパスを探してみてください。