理学療法士は増えすぎている?飽和問題と需要について簡単に説明します
理学療法士の数は増えすぎているのでしょうか?
近年、大学や専門学校の増設や定員拡大により、理学療法士の資格取得者は確かに増加傾向にあります。
その結果、「就職先がないのでは?」「年収や待遇が下がってしまうのでは?」と不安を感じる方も少なくありません。
しかし一方で、高齢化社会が進行する日本では、医療・介護分野での人材需要が今後さらに高まると予想されています。
実際、在宅医療や地域リハビリなどの新たな領域が拡大し、理学療法士の必要性が広がり続けているのも事実です。
本記事では、理学療法士が「増えすぎ」と言われる背景や飽和問題の実態、そして需要の動向について、わかりやすく簡単に解説します。
理学療法士は増えすぎている?
理学療法士(PT)の人数が増えすぎており、実際に供給過多の状態に直面しているのは事実です。
まずは厚生労働省が公表しているデータをもとに「いつ頃から供給過多になるのか」を考えてみましょう。
現在の理学療法士の総数(2024年時点)
2024年の時点で、理学療法士の資格保持者は約21万人とされています。
約10年前の2012年ごろは10万人程度だったため、わずか10年ほどで倍増したことになります。
1963年に資格制度が設けられて以来、約50年かけて10万人に到達し、その後の10年でさらに10万人が増えた計算です。
これは、過去50年と比べて5倍のスピードで増加していることになり、「爆発的な増え方」といっても過言ではないでしょう。
毎年の国家試験合格者の推移
理学療法士は毎年1万人近く増加しており、厚生労働省のデータからもその傾向がうかがえます。
以下に示すように、「理学療法士国家試験」の合格者数は次のとおりです。
年度 | 試験回 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
2017年 | 第52回 | 13,719人 | 12,388人 | 90.3% |
2018年 | 第53回 | 12,148人 | 9,885人 | 81.4% |
2019年 | 第54回 | 12,605人 | 10,809人 | 85.8% |
2020年 | 第55回 | 12,283人 | 10,608人 | 86.4% |
2021年 | 第56回 | 11,946人 | 9,434人 | 79.0% |
(出典:厚生労働省「国家試験合格発表」)
2021年(第56回試験)時点の有資格者数は約19万人にのぼり、これは2011年の約9万人から10年でほぼ倍増したことになります。
2040年には1.5倍もの供給過多に
国が公表している需要と供給のバランス予測によると、最も早ければ2026年にも理学療法士の供給が需要を上回る「供給過多ゾーン」に突入するとみられています。
ヘルスケアのニーズは高まっている一方で、あまりにも急激にPTの人数が増えると、就職市場の競争激化や待遇の変化などに影響が出る可能性があります。
さらに、2040年頃には理学療法士の数が45万人を超え、需要を1.5倍ほど上回ると推計されています。
この数値から見ても、今後は理学療法士を取り巻く就職環境や労働条件が厳しくなることが予想されます。
なお、こうしたデータが「理学療法士は増えすぎた」と言われる大きな理由となっています。
(参考:厚生労働省「理学療法士・作業療法士の需給推計について」(平成31年))
以上が、理学療法士が増えすぎているかどうかの真相でした。
次に、ここまで理学療法士の人数が急激に増えすぎた背景について詳しく解説します。
どうして理学療法士は増えすぎたの?
理学療法士は、医療現場から介護施設、スポーツ分野まで幅広い領域で活躍できるため、需要が高まっています。
しかし一方で、「理学療法士が増えすぎている」との声も少なくありません。
いったい、その原因はどこにあるのでしょうか。
以下に主な要因をまとめてみました。
養成校の数が増えた
2000年(平成13年)頃には全国で118校しかなかった理学療法士養成校ですが、2023年(令和4年)にはその数が275校にまで増え、倍以上の拡大を遂げています。
この背景には、高齢化社会の進行によって医療・介護分野へのニーズが高まる中、理学療法士の需要が急速に拡大している現状があります。
高齢者のリハビリテーションや介護施設でのケアだけでなく、在宅医療やスポーツ分野など、理学療法士の活躍が期待される領域が多岐にわたることが、養成校増設の一因となっています。
しかしながら、養成校の増加によって教育の質が一定に保たれるかどうか、懸念を示す声も少なくありません。
従来は厳しい入学条件や充実したカリキュラムを確保することで、高度な専門知識と実技を身につけた理学療法士を輩出してきました。
ですが現在のように多くの養成校が存在するなかで、その教育の質や実習環境にばらつきが生まれる可能性が指摘されています。
たとえば、カリキュラムの内容や教員の経験、臨床実習の体制や指導方法など、養成校ごとに大きく異なるケースも。
結果として理学療法士としてのスキルや知識に差が生じるリスクが高まるというわけです。
養成校が一時期に乱立した
近年、理学療法士養成校が全国各地で一気に増えた時期があり、それによって理学療法士を目指す学生の入学難易度は大幅に下がりました。
本来であれば、急増する医療・介護ニーズに応えるための措置として養成校を増やすことは意義があります。
しかし、一方で短期間に大量に設置された養成校に対しては、教育の質の確保や実習先との連携が十分に構築されていないのではないかという批判の声も聞かれます。
特に、学生数の増加に対して教員数や実習指導者の確保が十分に行き届かず、現場での実習経験を十分に積むことが難しいケースもあるようです。
そのため、理論だけではなく実践力が求められる理学療法士の教育において、学生一人ひとりへの指導やフォローが行き届かない懸念が高まっています。
結果として、質の低い教育を受けた理学療法士が増えてしまうとすれば、医療現場にとっても大きな課題となるでしょう。
国家試験の合格率が高い
また、理学療法士国家試験の合格率が毎年90%前後という高水準で推移していることも、理学療法士が増え続ける背景の一つとなっています。
試験自体の難易度が不適切に低いわけではありません。
多くの養成校が国家試験対策を強化し、卒業試験の段階で合格見込みのない学生を受験させないなど、合格率を保つための仕組みを整えていることが大きく影響しているといえます。
その結果、実際には国家試験を受けられる段階までたどり着いた学生の合格率が高く見えますが、これが「理学療法士になるのは意外と簡単」という誤解を生む一因にもなっています。
実は、養成校への入学と在学中の学習、そして実習をクリアするハードルが下がったことで、教育現場ではさまざまな問題が山積しています。
例えば、学生の学習意欲や基礎知識が不十分なまま卒業してしまうケースもあり、現場では即戦力とならず指導を要する時間やコストが増えることを懸念する声もあります。
こうした構造的な問題が、理学療法士全体の評価を下げる結果を招くのではないかという不安が広がっています。
医療や介護の現場では、ますます専門性の高い理学療法士が求められる一方で、量の拡大に対して質の担保が追いついていないというジレンマを抱えているのが現状といえるでしょう。
以上が、理学療法士が増えすぎてしまった背景でした。
続いて、理学療法士が増えすぎた影響から、働ける場所が減っていくのかどうかについてみていきましょう。
理学療法士の働ける場所は減っていく?【増えすぎた影響】
理学療法士が働く環境は変化しており、「勤め先が減っている」というわけではなく、多様化が進んでいるのが現状です。
理学療法士や作業療法士の人数は年々増え続け、競争が激しくなっているのは事実です。
ですが、その一方で新たな働き方やこれまで注目されていなかった分野も広がっています。
今後、理学療法士が増えすぎてしまった就業環境がどのように変化していくのか、考えていきましょう。
理学療法士の需要は今後も高まる
日本理学療法士協会の統計データ(2021年3月時点)によると、約13万人の会員のうち、8万5,000人ほどが病院やクリニックなどの医療施設で勤務しています。
これは全体の約7割に当たります。
一方、高齢化が進む日本では、今後さらに介護分野への需要が高まることが見込まれます。
特に訪問リハビリ領域では、新規事業所のオープンが相次ぎ、求人数も増加傾向にあります。
これからは在宅サービスにおけるリハビリ需要がますます高まっていくでしょう。
自分の理想とする職場に就職するのは困難
理学療法士が増えている以上、特に新卒の方が「自分が本当に望む職場」に就職するのは以前より難しくなりました。
病院やクリニック、リハビリテーション施設など従来から人気の高い職場は、特に競争率が上昇しています。
そのため、新卒の段階で好条件の職場を手に入れる人は限られるでしょう。
しかし、視点を変えてみれば、新たな領域やまだ開拓されていない分野に挑戦し、多角的にキャリアを築くことで新しい可能性を切り開くチャンスも生まれます。
「理学療法士は転職しやすい職種」は過去の話
かつては理学療法士が転職しやすいという印象を持たれていました。
実際、一般企業に比べれば今でも転職のしやすさは高いとも言えます。
しかし、理学療法士の人数が増えたことで状況は変わり、空きポジションが少なく条件の良い職場への転職は難しくなっています。
競争が激化している今、専門性を高めるだけでなく、どのような環境でも柔軟に対応できるスキルが求められるでしょう。
新領域の模索をする人も
理学療法士の活動範囲は、病院やリハビリ施設だけでなく、整体院やフィットネス業界へも広がっています。
医療の知識を活かして健康増進やパフォーマンスアップをサポートするアプローチは、予防医療が重視される現代において非常に重要です。
従来の枠組みにとらわれずに革新的なサービスを展開することで、高い評価を得るチャンスがあります。
自分の得意分野を活かしながら新領域にチャレンジすることが、競争の激しい状況を突破する一つの手段になるでしょう。
以上が、理学療法士が増えすぎた影響から、働ける場所が減ってしまうのかどうかについての見解でした。
最後に、増え続ける中で自身が必要とされる理学療法士でいるためにできることをご紹介していきます。
理学療法士が増えすぎた状況で必要とされるためには
理学療法士の数が増えすぎてしまった今、必要とされ続けるためには、自分だけの強みを打ち出すことが重要です。
転職市場でも、独自のスキルや経験を示す必要があります。
専門性を深める
理学療法士には、さらに高度な資格として「認定理学療法士」や「専門理学療法士」が存在します。
特定の分野における専門性の高さが公的に証明されるため、「日本理学療法士協会」からお墨付きを得られる資格と言えます。
これにより、他の理学療法士との差別化が期待できるでしょう。
認定理学療法士の主な分野
- 脳卒中
- 神経筋障害
- 脊髄障害
- 発達障がい
- 運動器
- 切断
- スポーツ理学療法
- 徒手理学療法
- 循環
- 呼吸
- 代謝
- 地域理学療法
- 健康増進・参加
- 介護予防
- 補装具
- 物理療法
- 褥瘡・創傷ケア
- 疼痛管理
- 臨床教育
- 管理・運営
- 学校教育
専門理学療法士の主な分野
- 基礎理学療法
- 神経理学療法
- 小児理学療法
- 運動器理学療法
- スポーツ理学療法
- 心血管理学療法
- 呼吸理学療法
- 糖尿病理学療法
- 地域理学療法
- 予防理学療法
- 支援工学理学療法
- 物理療法
- 理学療法教育
これらの上位資格を取得するには、まず「登録理学療法士」として研修を受ける必要があり、少なくとも5年ほど要します。
学び続けるモチベーションが求められるため、覚悟が必要です。
ただし、認定資格を取得したとしても、それが直接的な給与アップにつながるケースは多くありません。
そのため、「資格を取っても意味がない」と言われる面もあるのが現状です。
ですが、求められ続けるという点では非常に有効な方法であると言えます。
転職という選択肢
今より良い待遇を得たい場合、転職は有力な選択肢の一つです。
長期研修を受ける必要などもないため、比較的スピーディーに環境を変えられます。
特に「訪問看護ステーション」への転職は人気が高く、待遇アップを求めて転職する理学療法士も少なくありません。
最近は好条件のステーションがやや減少傾向にあるとはいえ、いまだに年収が100万円程度上がるケースも見られます。
不安があるならエージェントに相談しよう
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副業・起業に挑戦する
本業で培ったスキルを活かし、副業にチャレンジすることで、ほかの理学療法士とは違う強みを打ち出すことも可能です。
場合によっては独立につながるケースもあるでしょう。
理学療法士の主な副業例
- 【時給型】非常勤勤務(PT)、アルバイト、セミナー講師、ウェブライター
- 【ストック型】ブログ運営、SNS発信、コンテンツ販売、YouTube活動
非常勤勤務は、時給2,000円以上も狙えることがあるなど、安定的に収入を増やしやすい方法の一つです。
また起業するというのも一つの選択肢です。
理学療法士は、医師の指示のもとでのみ理学療法を行う資格のため、開業権を有していません。
ただし、理学療法の範囲を超えない業務であれば、自分で事業を立ち上げることは可能です。
近年では、施術サロンや整体院、デイサービスなどを開業する理学療法士が増えてきました。
また、専門知識を活かして講師活動を行い、セミナー団体を設立して活躍するケースもあります。
事業が軌道に乗れば、雇用形態よりも高い収入を得たり、長く働き続けられる可能性が広がります。
しかし、起業には常に金銭面のリスクが伴い、経営を維持するのは簡単ではないことを十分に理解しておく必要があります。