「作業療法士は人手不足に陥ってるの?」

リハビリの需要は依然として高く、作業療法士(OT)の就職率は良好な水準を維持しています。

しかしながら、職場環境は一様ではなく、作業療法士の人手が充足している場所と、人手不足に悩む職場が混在しているのが実情です。

本記事では、作業療法士の有資格者の現状を踏まえつつ、人手不足に悩む職場の背景や、作業療法士の将来的な需要動向について分かりやすく解説していきます。

作業療法士は人手不足?

作業療法士が人手不足なのでしょうか?養成校数は増加し続けており、2021年時点で有資格者数は104,465名にまで増加しています。

確かに、有資格者数が多く需要も高いように見えますが、実際は事情が複雑です。

2019年の厚生労働省の調査によると、理学療法士(PT)と作業療法士の供給は既に需要を上回っており、2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍になると推計されています。

超高齢社会においてリハビリ職の需要が高いと言われていますが、現状では既に飽和状態にあるのが実情です。

現場によっては人手が足りない

作業療法士の数自体は飽和状態ですが、職場によってばらつきがあります。

最新の統計によると、日本作業療法士協会に属している作業療法士の中で、医療機関などに勤務する者が全体の半数以上の36,693人を占めています。

一方で、介護保険関連施設では6,147人、高齢者福祉施設では2,274人、児童福祉施設では1,241人と、医療機関に比べると人員が少ない状況にあります。

疾患別に見ると、最も多いのが「脳血管疾患」の23,497人で、圧倒的に多くなっています。

一方で、「精神及び行動の障がい」を対象とする作業療法士は8,680人と少数派です。

そのうち「心理的発達及び小児/青年期に通常発達する行動/情緒の障がい」に従事する作業療法士は844人にすぎません。

つまり、発達障がいなどの分野は、特に作業療法士の人手が十分ではないと考えられます。

作業療法士の就職率

作業療法士就職環境は非常に良好です。

日本作業療法士協会によると、就職率は100%に達しています。

さらに、転職サイトの「マイナビコメディカル」では、作業療法士の求人数が1万件を超えており、資格を持っていれば就職先に困ることはありません。

ただし、人気の職場については、応募者が多く競争が激しくなることにも注意が必要です。

作業療法士としてキャリアを有利に進めるためには、将来を見据えたキャリア形成を考えることが重要です。

仕事場所はなくならないが、就職することが難しくなる可能性が

作業療法士の数が増加しても、将来的に就職先が減少する可能性は低いと考えられます。

実際のところ、この職種の就職率はそれほど悪くありません。

さらに、高齢化が進むことで、作業療法士に対する需要は高まる可能性があります。

リハビリ以外の介護の分野でも活躍の場が広がるかもしれません。

就職や転職の競争が激しくなることは予想されますが、完全に就職先がなくなることはないでしょう。

以上が、作業療法士が人手不足であるかどうかの事情でした。

次に、現場によって作業療法士の人手不足が起きている件についてより詳しくみていきたいと思います。

現場によっては起こる作業療法士の人手不足

現場によっては、人手不足に陥っている作業療法士。

どうして作業療法士が人手不足になるのか、それぞれの現場ごとに分けてみていきましょう。

病院は比較的人が足りている

病院における作業療法士の人員増加の背景には、リハビリ体制の特徴があります。

急性期や回復期の病院では、個別のリハビリが中心となるため、必然的に作業療法士の人数も多くなる傾向にあります。

一方で、作業療法士の人員が十分に確保されている職場の強みとしては、中堅から経験豊富なスタッフが揃っていることが挙げられます。

そのため、新人作業療法士に対する教育体制が整っており、新卒者が安心して就職できる環境が整っています。

この体制により、スタッフの退職があっても、新卒者の入職と育成によって、自然と人材不足を補うことができるシステムが構築されています。

さらに、作業療法士の人員が十分で組織が大きい場合、給与面や福利厚生の充実、休暇の取りやすさなどの利点があり、就職先としての需要も高いと考えられます。

介護施設の作業療法士は少ない

日本は確実に高齢化が進んでおり、2025年には3,677万人まで増加すると予想されています。

この傾向は今後も続き、2042年にピークを迎えると推測されています。

高齢化の進行に伴い、身体的な衰えや認知症患者の増加が懸念されます。

作業療法士は、高齢者分野においても重要な役割を果たすことが期待されています。

しかし、医療機関で活躍する作業療法士に比べ、介護施設などで働く作業療法士の数は少ない現状にあります。

介護施設では、患者さん一人あたりのリハビリ時間が短く、一人の作業療法士が多くの患者さんを担当することが多いため、作業療法士の人数が少ない傾向にあります。

さらに、介護施設の多くでは機能訓練指導員の人員基準に、PT、ST、看護師なども含まれるため、作業療法士が勤務していない施設も多数あります。

一方で、高齢者の在宅生活が増加することが予想されるため、作業療法士の需要は施設だけでなく、訪問リハビリなどでも広がっていくことが期待されます。

小児分野は人手不足に陥っている

小児分野での人材不足は深刻な課題です。

医療療育施設や放課後等デイサービス、訪問リハビリなどでは、作業療法士の確保が難しい状況にあります。

これまでは「小児は就職先が少ない」と言われていましたが、発達障がいへの支援の広がりにより、小児分野の需要は高まっています。

特に2012年の放課後等デイサービスの開始により、障がい児童に対する社会生活の場やリハビリの提供の場が増えています。

しかし、放課後等デイサービスでは多職種が連携して業務にあたるため、作業療法士の教育体制が整っていない事業所も多く、新卒での就職は少ないのが現状です。

また、訪問リハビリでは小児疾患に対する知識・技術に加え、看護師との連携やリスク管理能力も求められます。

これらの背景から、小児分野への興味はあっても未経験で飛び込みづらく、作業療法士の確保が難しくなっているのではないでしょうか。

小児分野の魅力を伝え、適切な教育体制を整備することが重要だと考えられます。

以上が、現場ごとにみた作業療法士の人手不足問題でした。

最後に、作業療法士の将来性と今後作業療法士に求められる変化についてみていきましょう。

作業療法士の将来と求められる変化

作業療法士の将来においては、より幅広い分野での活躍が求められるでしょう。

例えば、高齢者や障がい者の自立支援や就労支援、学校や企業でのメンタルヘルスのサポートなど、新たなニーズに対応するために、幅広い知識や技術を持つ作業療法士が求められると考えられます。

さらに、ICT技術の進化により、オンラインでのリハビリやコミュニケーション支援など、新しい支援方法が求められる可能性もあります。

作業療法士は、これらの変化に柔軟に対応し、最新の技術や知識を習得する必要があるでしょう。

作業療法士の将来は、ますます需要が高まると予想されます。

しかし、同時に求められるスキルや知識も変化しています。これから作業療法士を目指す人は、将来のニーズに合わせた教育や研修を受けることが重要です。

変化①発達障害の分野で活躍できるようになろう

近年、学校現場では発達障がいのある児童や疑いのある児童への配慮が増えてきています。

以前は見逃されていた児童が認識されるようになり、リハビリ専門職との連携が重要視されるようになりました。

作業療法士は、日常生活動作(ADL)へのアプローチに加え、遊びを通した作業活動の活用が特徴です。

また、比較的新しい放課後等デイサービスの分野では、事業所の立ち上げや管理職への登用など、キャリアアップの機会が得やすいという利点もあります。

変化②予防リハビリの分野で活躍できるようになろう

リハビリの分野では、これまで疾病などによる「心身機能」「活動」「社会的参加」への制限を改善し、患者さんのQOLを向上させることが主な目的でした。

この重要性は変わりませんが、高齢化に伴う介護現場の負担と社会保障費の抑制のため、「予防リハビリ」にも注目が集まっています。

特に高齢者施設では、廃用症候群予防や認知症予防のための取り組みが広がっています。

しかし、機能訓練への利用者のモチベーションが低い場合があります。

そこで、趣味的活動を取り入れることで、健康維持と情緒面の賦活を図ることができます。

予防リハビリの活躍の場は病院や施設にとどまらず、公民館などでの健康講座の開催も可能です。

中には副業として健康講座の講師をしている人もいます。

ただし、講座開催には一定のキャリアや知識、人脈が必要です。

将来的に講演などを行える立場を目指したい方は、勉強会や研修会への積極的な参加を通じて、自己研鑽と人脈づくりに取り組むことをおすすめします。

変化③作業療法士の役割を伝えられる架け橋になろう

作業療法士の魅力は、身体機能だけでなく精神機能のリハビリにも取り組むことにあります。

作業療法士は医学知識を基盤に、音楽、園芸、手工芸などの多様な「作業活動」を活用して、患者さんのQOL向上を支援することができます。

時には、作業活動を中心としたリハビリが、他職種にとって「ただ楽しそうに手工芸をしているだけ」のように映るかもしれません。

しかし、実際には、手工芸の選択理由や作業療法士の関わり方には、必ず医学的根拠があります。

これらを音楽療法士や園芸療法士、介護スタッフなどの他職種に分かりやすく伝えていくことも、作業療法士の大きな役割の一つです。

他職種への指導的役割を担うことや、まとめ役となることで、作業療法士としてのやりがいがより生まれるでしょう。

また、他職種から得る知識によって、自らのリハビリの幅を広げることにもつながります。

患者さんのリハビリに注力することは大切ですが、同時に、他のスタッフと積極的に連携することで、作業療法士の強みを活かして職場で必要とされる人材になる努力も重要です。

変化④独立開業にチャレンジしてみる

独立開業して自営業を選択することも可能です。

実際に2011年の東日本大震災以降、在宅療養を余儀なくされた患者様を支援するため、訪問リハビリや訪問介護事業を立ち上げた作業療法士が多数いました。

また、柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師などの開業資格を取得し、作業療法士としての専門知識や技術を活かしながら、接骨院やマッサージ店を開業する方法もあります。

開業には時間、労力、資金が必要で容易ではありませんが、経営状況によっては組織に雇用されている時よりも収入を得られる可能性があります。

作業療法士としての知識、技術、経営力に自信がある方は、起業を検討してみるのも一つの選択肢かもしれません。

変化⑤スキルを磨く

今後、作業療法士の数が増えれば、セラピストの競争が激しくなるかもしれません。

スキルのない人は淘汰されるかもしれません。

そのため、自身のスキルを磨き、強みを身につけることが転職に役立つ可能性があります。

資格取得や学会発表などの実績を得るのも効果的かもしれません。

変化⑥副業や資産形成をする

医療業界の収益は医療保険制度によって大きな影響を受けます。

将来的に給与やボーナスが減少する可能性があります。

このようなリスクに備えるため、副業で収入を得る能力を身につけ、今のうちに資産形成をすることが重要です。

後手に回ると手遅れになるかもしれません。早めに対策を立てておくことが賢明です。

以上が、作業療法士の将来性と求められる変化についてのお話でした。

作業療法士の人手不足が深刻化している現状について、資格保有者数や需要などについて分かりやすく解説しました。

作業療法士は、様々な身体的・精神的な障害を抱える患者さんのリハビリテーションをサポートする専門職です。

しかし、これまで以上に高齢化が進む日本社会において、作業療法士の需要はますます増加しています。

一方で、資格保有者数が需要に追いついていないため、人手不足が深刻化しています。

作業療法士に興味のある方や、将来の進路を考えている方はぜひ参考になさってください。