2025年10月31日
児発管と管理者の違いは?兼務が認められる条件と注意点まとめ
放課後等デイサービスや児童発達支援事業所では、「児童発達支援管理責任者(児発管)」と「管理者」がそれぞれ配置されます。
児発管は、支援の専門的な管理を行う職種です。
一方で管理者は、事業所全体の運営を統括します。
両者を同一人物が兼ねる「兼務」は、国の基準上は認められていますが、自治体によって運用の解釈が異なり、実務上の注意点も多く存在します。
この記事では、児発管と管理者の違いを整理して解説します。
よく混同される「児発管」と「管理者」の違いは?
結論から言うと、児発管は「支援の質」を守る専門職、管理者は「事業所の運営」を支えるマネージャー職という違いがあります。
どちらも責任者という肩書きを持つため、「どっちが上?」「何が違うの?」と迷う人は少なくありません。
詳しく見ていきましょう。
児発管は「支援の専門的な管理を行う」
児発管は、こどもの特性や発達段階に合わせて「個別支援計画」を立てる専門職です。
こどもが安心して成長できるよう、療育の方向性を決めたり、児童指導員や保育士に助言したりする役割を担います。
そのため、児発管になるには一定の実務経験と資格が必要です。
法律でも厳密に要件が定められており、支援の質を担保する専門職です。
関連記事:児発管とは?
管理者は「事業所全体の運営を統括する」
一方、管理者は事業所全体を動かすマネージャー職です。
採用や勤怠管理、会計、行政対応、監査、保護者への最終対応など、組織運営に関わるすべての責任を負います。
現場で支援に入ることは少ないですが、チームをどう動かし、環境をどう整えるか。その采配によって施設の雰囲気や働きやすさが大きく変わる重要なポジションです。
なお、法律上、管理者には児発管のような資格要件は設けられていません。
これは「専門性よりも運営力」を重視したポジションだからです。
児発管と管理者の業務範囲の違い
放課後等デイは、児発管・管理者・児童指導員(または保育士)の主に3職種が連携して成り立っています。
役割を簡単に整理すると、次のようになります。
- 管理者・・・職員全員を統括し、事業所運営の責任を負う
- 児発管・・・支援計画の作成・助言を通して、支援の質を管理する
- 児童指導員・保育士・・・こどもと日々関わり、支援を実践する
つまり、管理者は「運営のリーダー」、児発管は「支援のリーダー」です。どちらが上かではなく、担当する業務範囲が違うというイメージです。
「児発管」と「管理者」の違いを具体的に比較してみよう
児発管と管理者はどちらも児童福祉法施行規則で配置が義務づけられています。
その上で、児発管と管理者がそれぞれどのような役割を担っているのかを、以下の表で整理します。
児発管と管理者の違いを一目で理解する比較表
以下は、両者の役割・責任・資格要件などを整理した比較表です。
| 項目 | 児童発達支援管理責任者(児発管) | 管理者 |
|---|---|---|
| 中核的役割 | 支援の質の担保と向上 | 事業所の安定運営と法令遵守 |
| 法的根拠 | 児童福祉法に基づき、こども家庭庁長官が告示で定める | 児童福祉法施行規則に基づく |
| 主な職務 | 個別支援計画の作成・管理、アセスメント、モニタリング、職員への専門的指導、関係機関との連携 | 職員の労務管理、採用・育成、収支管理・請求業務の監督、行政対応、保護者対応 |
| 必須資格要件 | 実務経験(3~8年)+基礎・実践研修の修了が必須 | 原則なし |
| 人員配置基準 | 常勤・専任で1名以上配置 | 1名以上(常勤・兼務可) |
| 権限の範囲 | 支援内容に関する専門的判断権を持つ。児童指導員等への助言・指導 | 事業所運営に関する包括的な指揮命令権。全職員(児発管含む)の人事権を持つ |
両者はそれぞれの業務範囲が明確に分かれており、どちらが上位という関係ではなく、支援面と運営面の両方から事業所の運営を分担している形です。
Q&Aで整理する「児発管」と「管理者」の違い
【Q1】どちらが上司なの?
運営面では「管理者」が上司にあたります。
勤務シフトや人事評価、業務命令といった労務管理の権限を持つのは管理者です。ただし、これはあくまで組織運営上の関係です。
支援内容や計画の決定など、専門的な判断に関しては「児発管」が主導権を持ち、管理者はその判断を尊重する立場にあります。
【Q2】意見が対立した場合、どちらが優先されるの?
判断の軸は「支援」か「運営」かによって異なります。
こどもの発達支援の方向性や支援プログラムの内容など、支援の質に関わる部分では児発管の意見が優先されます。
一方で、予算や人員配置、採用方針など、事業運営に関わる部分では管理者が最終決定権を持ちます。
理想的な事業所では、どちらか一方が強く主張するのではなく、「こどもの最善の利益」を共通のゴールとして、両者が協議し合いながら決定を下します。
【Q3】給料はどっちが高いの?
一般的には、資格要件と実務経験が厳しい児発管の方が給与水準は高い傾向にあります。
ただし、管理者が経営者を兼ねていたり、大規模事業所を統括していたりする場合には、管理者の方が上回るケースもあります。
資格要件の違いが生む「すれ違い」にも注意
児発管には厳格な資格要件がありますが、管理者には原則として資格要件がありません。
そのため、福祉業界以外の出身者が投資目的などで管理者となるケースもあります。
こうした場合、支援の専門性や倫理を十分に理解しない管理者と、専門職である児発管の間で意見の衝突が起こることがあります。
例えば、「人件費削減を優先して職員を減らす」「短期間で定員を増やす」など、支援の質を犠牲にするような運営方針が持ち込まれると、児発管が強いストレスを感じることもあります。
互いの役割を理解し、尊重し合うことが、こどもの支援の質を維持するうえで重要になります。
次の章では、「児発管と管理者を兼務できるか」という実務上のルールを詳しく見ていきます。
児発管と管理者の兼務はできる?
結論から言うと、児発管と管理者は国の制度上、同じ人が兼務することができます。
ただし、これは「誰でも・いつでもできる」という意味ではありません。いくつかの明確なルールがあり、さらに自治体によって運用方針が異なります。
ここでは、国が定める基本ルールと、自治体ごとの違いを整理します。
国のルールでは「兼務は可能」※ただし条件つき
厚生労働省やこども家庭庁の通知・Q&Aでは、「管理者との兼務は可能」と明記されています。つまり、児発管の業務に支障がない範囲であれば、同一人物が管理者も兼ねられるという考え方です。
出典:こども家庭庁支援局障害児支援課|「障害福祉サービス等報酬(障害児支援)に関するQ&A」について
実際、小規模の事業所や開設したばかりの施設では、人材確保が難しいため、児発管と管理者を同一人物が兼ねる体制が一般的に採用されています。
ただし、ここで注意すべきは「児発管の人員配置基準」にある専任の扱いです。法律では、児発管は「常勤かつ専任で1名以上」と定められています。
原則として、専任とは「その業務に専ら従事すること」を意味します。
本来であれば、他の職務を兼ねることはできませんが、管理者との兼務については、専任要件の例外として特別に認められています。
自治体によって異なる「ローカルルール」に注意!
国が「兼務可」としていても、最終的な判断を下すのは各自治体です。実際の運用には地域ごとの違いがあり、自治体による確認は必須です。
東京都の場合
多くの自治体では国の方針に沿い、管理者と児発管の兼務を認めています。届出上も特別な制限は少なく、比較的柔軟な運用がされています。
大阪市の場合
大阪市は全国的にも厳格な運用を行う自治体です。
特に新規指定(開設申請)時には、管理者と児発管の兼務を原則として認めていません。開設直後の重要な時期には、それぞれの責任者が自分の業務に専念すべきという方針に基づいています。
さらに、児発管になるための実務経験(OJT)期間の短縮など、
人員配置に関する特例を利用する際には、市への届出を義務付けるなど、運用が非常に細かく定められています。
大阪市のように兼務を制限する背景には、現場での課題やリスクの存在があります。
例えば、
- 兼務によって児発管業務が十分に遂行できず、支援計画の更新が遅れる
- 監査で「形だけ配置」と指摘されるケースがある
- 支援の質が低下したり、職員への指導が手薄になる
こうした問題を防ぐため、自治体が行政裁量で兼務体制を制限していると考えられます。
つまり、国の基準はあくまで”最低ライン”であり、最終判断は自治体が行うということです。
児発管と管理者を兼務する前に、必ず確認すべきポイント
事業所を開設したり、体制を変更したりする際には、必ず所管自治体の障害福祉課・指定担当部署に確認することが重要です。
確認すべきポイントは以下の通りです。
- 管理者と児発管の兼務が認められているか
- 兼務届や配置報告など、自治体独自の書類が必要か
- 新規指定と運営中(更新・変更)で対応が異なるか
- 実地指導や監査での指摘事例があるか
こうした確認を怠ると、思わぬタイミングで「不適合」と判断されるリスクもあります。
特に開設初期は、「人員配置が整っているか」が監査の最重要チェック項目になるため、慎重に判断しましょう。
次の章では、こうした兼務体制の中で起こりやすい「現場の課題とリスク」について事例をもとに解説していきます。
児発管・管理者の兼務の現場で起こりやすい課題
児発管と管理者を一人が兼ねることは法的に認められていますが、実際の現場では多くの課題とリスクを抱えています。
人員を減らして効率化できる一方で、「支援の質」や「職員の働く環境」を大きく損なう恐れがあります。詳しく見ていきましょう。
兼務の最大の課題は「業務過多」と「役割の衝突」
兼務体制の最大の問題は、一人に業務と責任が集中してしまうことです。
その人が体調を崩したり退職した場合、支援計画や運営の判断を引き継げる人がいなくなり、事業所全体の業務が止まってしまう危険もあります。
最も深刻な問題は、一人の人間に過剰な責任と相反する業務が集中することです。
児発管の仕事は、個別支援計画の作成、モニタリング、記録作成など、集中力を要する事務的・分析的業務が中心です。
一方で、管理者の仕事は、職員のシフト調整、保護者対応、行政からの問い合わせなど、即時対応が求められる業務が多いのが特徴です。
この結果、「緊急だけど重要度の低い業務(管理者業務)」が、
「重要だけど緊急ではない業務(児発管業務)」を常に押しのける構図が生まれます。
日々の対応に追われ、本来丁寧に行うべき支援計画の策定やモニタリングが後回しになってしまうのです。
兼務の現場で実際に起こりやすいリスク
① 支援計画が「形だけ」になる(形骸化)
支援計画やモニタリング報告書の作成が期限に追われ、内容の見直しや検討に十分な時間が取れないケースがあります。
結果として、前回とほとんど同じ内容の計画が繰り返し使われるなど、実質的な支援管理が行われなくなることもあります。
こうした状況は「形だけの計画」とみなされ、運営基準違反として監査で指摘され、報酬減算の対象となることがあります。
② 心身の限界・燃え尽き
児発管と管理者を兼ねることで、業務と責任が集中します。長時間労働や休日対応が続き、疲労やストレスが蓄積して体調を崩したり、精神的に限界を感じて離職に至るケースも少なくありません。
③支援の質の低下
管理業務に時間を取られ、こどもや職員と向き合う時間が減少します。
ケース会議や職員指導が形だけになり、現場全体の支援レベルが落ちる危険があります。
監査で指摘されやすい実例
実際の監査では、次のようなケースが問題視されます。
このような指摘は単なる「記録ミス」ではなく、実質的に児発管が不在の状態とみなされる深刻な問題です。
次の章では、こうした問題を防ぎ、兼務体制をうまく機能させるための体制づくりについて考えていきましょう。
児発管・管理者の兼務体制はどうすればうまく機能する?
児発管と管理者の兼務は、支援の質や職員の負担を考えると理想的な体制ではありません。
それでも多くの事業所では、人材確保の難しさから「兼務せざるを得ない」という現実を抱えています。
大切なのは、兼務を前提にリスクを最小化し、組織的に支え合う仕組みをつくることです。
兼務が比較的うまくいく「前提条件」とは?
児発管・管理者の兼務が円滑に機能するのは、次のような条件が整っている場合です。
①小規模な事業所であること
利用定員や職員数が少ない施設では、全体の状況を一人で把握しやすく、意思決定もスムーズに進みます。
②支援の難易度が比較的軽いこと
医療的ケア児や行動支援が多い重度ケースではなく、比較的安定した支援が中心の場合、児発管業務の負荷が抑えられます。
③信頼できる主任児童指導員などの配置
主任児童指導員など、シフト調整や職員間の連絡、保護者対応を任せられる職員がいると、日常の運営業務を分担できます。その結果、児発管や管理者は、支援計画の作成や行政対応など、専門的な業務に集中しやすくなります。
④ 業務の標準化で、支援の質を守る仕組みを作る
請求業務や記録作成など、事務的な業務をマニュアル化・システム化しておくと、誰が担当しても同じ水準で処理できます。
これにより、児発管や管理者が支援内容の検討や職員育成など、本来必要な業務に時間を使えるようになります。
業務の標準化は、支援が形だけになることを防ぐための基盤づくりでもあります。
「児発管」と「管理者」どちらを目指すか?
児発管と管理者、どちらを目指すかは自分が「支援の専門性を深めたいのか」「組織を動かす力を磨きたいのか」で変わります。
ここでは、両者のキャリアパスと将来の可能性を整理します。
児発管は「支援の専門職」としてのキャリア
児発管、支援計画の立案やアセスメントを通して、より深くこども一人ひとりと向き合いたい人に向いています。
経験を重ねることで、他事業所のスーパーバイザーや研修講師など、専門家として後進を育成する道も開かれます。
管理者は「組織を動かすマネジメント職」としてのキャリア
管理者は現場経験を活かしながら、採用・人材育成・財務管理などを通して、事業所全体をリードする立場です。
実績を積めば、エリアマネージャーや法人本部職へのステップアップ、さらには独立・開業による経営者としてのキャリアも視野に入ります。
兼務で得られる「ハイブリッド型」キャリア
児発管と管理者を兼務する経験は、支援の現場から経営判断までを一貫して経験できる貴重な機会です。
負担は大きいものの、将来独立を目指す人にとっては、事業運営の全体像を実践的に学べるキャリア資産となります。
児発管・管理者の市場価値と報酬の違いは?
児発管は、資格要件が厳しく、有資格者が不足しているため、福祉業界の中でも高い市場価値を持つ専門職です。
特に、児童指導員や保育士から児発管にキャリアアップすると、月給で5〜10万円ほど上がるケースも少なくありません。
一方で、研修や実務要件のハードルがあるため、資格取得までに時間がかかる点は理解しておく必要があります。
関連記事:児発管になるには?
一方、管理者は資格よりもマネジメント力や経営的視点が求められる職種です。
人材育成や事業計画の立案など、組織全体をまとめる力を磨くことで、複数事業所を統括するエリアマネージャーや法人本部職など、より高収入のポジションへ進む道が開けます。
児発管と管理者のどちらが「上」ということはありません。
求められるスキルや得られるやりがいが異なるため、自分のやりたいことや強みから考えるのが最も現実的です。
| 判断軸 | 児発管に向いている人 | 管理者に向いている人 |
|---|---|---|
| 関心の方向 | こども一人ひとりへの支援・療育に関心がある | チーム運営や組織づくりに関心がある |
| 得意なこと | 観察・記録・分析などコツコツ積み上げる仕事 | 判断・指示・調整など人を動かす仕事 |
| キャリアの先 | 専門職(スーパーバイザー・講師) | 経営職(エリアマネージャー・施設長) |
| 働き方 | 現場に関わり続けたい | 複数拠点を見渡す立場を目指したい |
どちらの道にも共通して言えるのは、この業界では「支援と運営、両方の理解を持つ人材が最も重宝される」ということです。
最初は専門職として児発管を経験し、その後に管理者として組織運営を学ぶキャリアパスも多く見られます。
それぞれの強みと関心に応じたキャリア選択が、結果的に支援の質と職場環境の向上につながります。

