2025年10月27日
児発管が感じる「直接支援できない」悩み・・・その中でできることは?
児童発達支援管理責任者(以下、児発管)の現場では、「こどもと関わりたいのに、直接支援の時間がほとんど取れない」と感じている人が少なくありません。
人手の配置や仕事の仕組みそのものが、児発管をデスク中心の働き方にしてしまっているからです。
とはいえ、現場とのつながりを完全に失う必要はありません。
この記事では、現場のリアルな声と明日からできる個人・施設の工夫を解説します。
児発管はなぜ「直接支援できない」と感じるのか?
「こどもともっと関わりたいのに、気づけば一日中パソコンの前にいる。」
児発管が「直接支援できない」と感じるのは、人員配置や仕事の仕組みが、現場に出にくい状況をつくっているためです。
制度上は支援に入ることができても、実際には人手や時間の制約から、デスクワーク中心にならざるを得ない現実があります。
児発管(児童発達支援管理責任者)は、障害のあるこども一人ひとりが安心して成長できるように、支援の全体をまとめる役割を担っています。
こどもの発達の様子や家庭での状況を丁寧に聞き取り、今の課題や必要なサポートを整理したうえで、「どんな力を伸ばしていくか」「どんな関わり方をするか」といった支援の方向を決めます。
また、学校や医療機関、相談支援事業所などと連携し、こどもを取り巻く人たちが同じ方向でサポートできるよう調整も行います。
このように、児発管は日々の支援を行うというよりも、チームの中心で支援をまとめ、方向を示す役割を持っています。
児発管は常勤かつ専任で1名以上配置することが義務づけられており、計画や管理の仕事に集中できるように定められています。
現場に入ること自体は禁止ではありませんが、その時間は職員数としてカウントされません。
関連記事:児発管と保育士の兼務はできる?
多くの施設が必要最小限の人員で運営しているため、児発管が現場に出ると「支援に入る職員が一人減った」とみなされ、人員基準を満たさなくなる恐れがあります。
その結果、制度上は可能でも、実際には現場に出づらいという状況が生まれているのです。
こうした構造の中で、児発管は支援の中心にいながらも、こどもたちと直接関わる時間を取りにくい立場になっています。
制度と現場のギャップに悩み、「もっとこどもたちの近くで支援したい」と感じる人が多いのは、この背景があるからです。
次の章では、「こどもと関わりたいのに関われない」という児発管のリアルな悩みと現場の声を紹介します。
「こどもと関わりたいのに…」児発管のリアルな悩みと現場の声
多くの児発管が抱える悩みは、「直接支援したいのにこどもと関わる時間がない」という現実です。
書類や会議に追われるうちに、現場の様子を直接見る機会が減り、理想と現実のギャップに苦しむ人が少なくありません。
制度的な仕組みが児発管を現場から遠ざけている一方で、本人たちは日々、もどかしさと葛藤を感じています。
・「今日はこどもの顔を見られなかった」現場に出られないもどかしさ
制度的な仕組みが児発管を現場から遠ざけている一方で、児発管の方たちは日々、もどかしさと葛藤を感じています。
もともと「こどもの成長に寄り添いたい」という思いでこの職に就いたのに、実際の毎日は書類・会議・調整業務に追われる時間がほとんどということも。
「今日は一度もこどもの顔を見られなかった」と気づいて、胸が痛む——そんな経験を持つ人は多いでしょう。
・書類と調整で一日が終わってしまう
児発管の仕事の多くは、終わりのない事務作業です。
個別支援計画書の作成や更新、モニタリング記録、新規利用児のアセスメント、契約関係の書類、さらに国保連への請求業務。どれもこどもを支えるうえで大切な仕事ですが、量が多く、勤務時間内に終わらず持ち帰ることもあります。
さらに、保護者との面談や学校・医療機関との連携会議など、コミュニケーション業務も絶えません。
「あなたにこどものことがわかるんですか?」という言葉に傷つき、孤独を感じることもあります。
気づけば一日中デスクから離れられない——そんな現状に、疲れを感じている人は少なくありません。
・「記録だけでは見えないこどもの姿」がある
もう一つの大きな悩みは、「記録だけではこどもの姿が見えない」ことです。報告書からは伝わらない表情の変化や、友達とのやり取り、新しいことに挑戦する瞬間。
そうした”生きた情報”を感じられないもどかしさは、支援の方向を考える上でも大きな壁になります。
「この計画は本当にこの子のためになっているのかな」と自問する人も多く、現場にいないことが、支援の質や自分の専門性への不安につながっています。
・「支援していないのでは」と自分を責めてしまう
人員体制がぎりぎりの事業所では、児発管が現場に出る余裕はほとんどありません。
「自分は支援していないのでは」「ただの事務係になってしまったのでは」と感じ、専門職としての自信を失ってしまうケースもあります。
こうした状況が続くと、モチベーションが下がり、離職を考える人も少なくありません。
責任の重さと業務量の多さ、そして「支援者である自分」を見失う怖さは、多くの児発管が抱えるリアルな葛藤です。
しかし、これらの悩みは個人の努力不足ではありません。
制度や運営の構造が原因で、多くの児発管が同じ壁にぶつかっている共通の課題です。
では、どうすればこどもと関わる時間を少しでも増やせるのでしょうか?
次の章では、忙しい毎日の中でも実践できる「児発管個人でできる工夫」を紹介します。
児発管「個人」ができること
こどもたちと関わる時間が減っても、児発管としての役割が失われるわけではありません。
ただ、「もう少し現場に出られたら」と感じる人も多いでしょう。
ここでは、限られた時間の中でも直接支援の機会を増やすための4つの方法を紹介します。
短時間でも「現場に出るきっかけ」を作る
「現場に入る時間を確保しよう」と思うと、どうしてもハードルが高く感じてしまいます。そこでおすすめなのが、「顔を出す時間を減らさない」という意識です。
朝の送迎でこどもを迎える5分間、帰りの会でお迎えを待つ10分間、活動準備中にフロアを少し歩く——。
たったそれだけでも、こどもたちの自然な表情や成長のサインを感じ取ることができます。
また、週に1回、15〜30分だけ「現場観察タイム」を予定として固定してみましょう。その時間は特定の業務をせず、ただこどもの様子を観ることに集中します。
そしてもう一つ、忘れがちなのが声かけの力です。
「〇〇くん、こんにちは」「〇〇先生、お疲れ様です」と一言交わすだけで、心理的な距離が縮まり、現場の空気を感じやすくなります。
ほんの数分の積み重ねが、現場とのつながりを少しずつ取り戻してくれます。
時間を奪う業務を「削る・まとめる」
現場に行く時間を生み出すためには、日々の業務の中で「削れる部分」を見つけることが鍵です。
記録は二段階で行う
支援中の気づきや重要な情報は、まずスマートフォンや手帳にキーワードだけでメモします(一次記録)。その後、一日のうちでまとまった時間に、そのメモを元に正式な記録として清書します(二次記録)。
これにより、記録のために支援の流れを中断したり、後で思い出せずに悩んだりする時間を削減できます。
計画書やモニタリングはテンプレート化で時短
よくある課題や目標設定のパターンについて、あらかじめテンプレートを作成しておきましょう。「この子に合わせて少し調整する」だけで済むようにすることで、ゼロから文章を作成する負担を大幅に軽減できます。
会議は短時間・複数回に分割
1時間の定例会議を「15分×週3回」の立ち話ミーティングなどに変えることで、隙間時間での情報共有が可能になります。会議の内容を明確にし、時間厳守を徹底することが成功の鍵になります。
承認・確認作業は1日2回に集約
スタッフからの確認依頼や書類の承認作業は、常に受け付けるのではなく、「11時半と16時半にまとめて対応します」というように時間を決めてみましょう。これにより、思考の中断を防ぎ、他の業務への集中力を高めることができます。
こうした小さな時短が、現場に向かう余白を生み出します。
現場にいなくても”こどもとつながっている状態”をつくる
たとえ現場に行けない日が続いても、こどもとの関係を感じ続ける方法はあります。
現場日報にコメント欄を設けてもらう
スタッフが記入する日報に「児発管への共有事項」といった欄を追加してもらいましょう。これにより、計画の目標達成に関連する具体的なエピソードや変化を報告してもらいやすくなります。
写真や動画で様子を共有してもらう
保護者の同意を得た範囲で、スタッフにこどもたちの活動の様子を写真や動画で撮影し、共有してもらいましょう。静的な記録では伝わらない、生き生きとした表情や動きから得られる情報は非常に多いです。
面談を”現場延長”として活用する
保護者とのモニタリング面談や相談の時間を、単なる報告の場ではなく、「家庭という現場」の様子を深く知る機会と捉えましょう。具体的なエピソードを丁寧にヒアリングすることで、こどもの全体像をより立体的に理解できます。
それでも時間が足りないときは、「減らす」より「決める」
どんなに工夫をしても、思うように時間が取れない週はあります。
そんなときこそ、「時間を確保しよう」と頑張るのではなく、先に時間を決めてしまうのがコツです。
たとえば、「毎週火曜の15:00〜15:20は現場観察」と具体的に決めてしまう。
Googleカレンダーなどに予定として登録し、チーム全体で共有しておくと、周囲もその時間を「児発管の大事な仕事」として認識してくれます。
個人の努力ではなく、チームの文化として根づかせることで、現場との関わりを自然に続けられるようになります。
そして、現場に出られた日をカレンダーやノートに記録してみましょう。小さな成功を”見える化”することが、次の行動へのエネルギーになります。
このように、少しの意識と仕組みの工夫で、現場との距離は確実に縮まります。「忙しいからできない」ではなく、「忙しいからこそ、できる範囲で関わる」。
その積み重ねが、児発管として「こどもに寄り添う」という感覚を取り戻す第一歩になります。
「施設」ができる児発管が現場と関わり続けられる環境づくり
児発管が「直接支援できない」と感じる背景には、個人の努力では変えにくい仕組みの問題があります。
だからこそ、児発管が現場と関わり続けられるように、施設全体で支える環境を整えることが大切です。
ここでは、現具体的な工夫をご紹介します。
専門業務に集中できる環境をつくる
まず取り組みたいのは、児発管の業務を整理し、専門性が必要な仕事と、他の職員でも対応できる仕事を分けることです。
新規利用希望者への一次対応や見学調整、送迎ルート作成、配布物の準備などは、事務員や支援スタッフに分担できます。
業務の役割を明確にし、児発管がアセスメントや個別支援計画づくりといった専門の業務に集中できる時間を確保しましょう。
また、個別支援計画の原案を児童指導員が作成し、児発管が最終調整を行う体制も有効です。
日々こどもと接している職員が書くことで、実態に合った支援計画を作ることもできます。
現場に出るための工夫として”兼務”を視野に入れる
施設によっては、児発管が保育士や児童指導員を兼務し、現場に入る時間を確保する体制を取る場合もあります。
これは「人手不足の穴埋め」ではなく、児発管が現場理解を深め、支援の一貫性を高めることを目的とした取り組みです。
ただし、兼務によって業務量が増えすぎると、肝心のアセスメントやモニタリングが後回しになるリスクもあります。
そのため、兼務を導入する場合は
- 人員基準を満たすこと
- 児発管の本来業務が疎かにならないよう配慮すること
- 他職員との業務分担ルールを明文化すること
を前提として運用しましょう。兼務が上手に機能すると、こども・職員・事業所の3者すべてにプラスの効果をもたらすこともあります。
「観察タイム」の制度化 ─ 現場に出ることを”業務”として位置づける
児発管が現場を観察する時間を、個人の裁量ではなく公式な業務として位置づけることも重要です。
勤務表に「週1回30分の現場観察」を明記しておくことで、他の業務に押し出されるのを防げます。
経営者や管理者が「観察は休憩ではなく、支援の質を高めるための大切な時間」と理解し、全職員にその意義を伝えることが大切です。
現場を定期的に観察することで、児発管はこどもの変化を”肌で感じる”ことができ、支援計画の修正やスタッフへの助言がより現実的なものになります。
こうした積み重ねが、チーム全体の支援力向上にもつながります。
こうした取り組みを積み重ねることで、児発管が「直接支援できない」職場から、現場とつながりながら専門性を発揮できるチーム体制へと変わっていきます。
個人の努力に頼らず、仕組みとして支援を支えることこそ、持続可能な施設運営の鍵となっています。

