保育士の仕事が「割に合わない」と感じることはありませんか?

責任の重さや業務量に比べて給料が低く、保育士が割に合わないと感じるのは当然のことかもしれません。

厚生労働省の調査によると、保育士の平均月給は他業種と比較して約10万円低いというデータもあります。

しかし、保育現場ではこどもたちの成長を間近で見られる喜びがある一方で、待遇面での不満は根強く存在しています。

この記事では、保育士の仕事が割に合わないと感じる理由を分析し、今後の給与改善の見通しや、より良い環境で働くための具体的な方法をご紹介します。

保育士が「割に合わない」と感じる実態とは

保育士が割に合わないと感じる最大の理由は、責任の重さに見合わない給与水準と過酷な労働環境です。

多くの保育士が「やりがい」と「現実」のギャップに苦しんでいます。

保育士の平均給与と他業種との比較データ

保育士の給与は他業種と比較して依然として低水準であり、多くの保育士が「割に合わない」と感じる要因となっています。

求人ボックスのデータによると、正社員の保育士の平均年収は約330万円です。

厚生労働省の2023年の調査では約396万9000円と報告されています。

これらのデータを踏まえると、保育士の平均年収は300万円台後半から400万円程度と考えられます。

しかし、全産業の平均年収と比較すると依然として差があり、特に同じ福祉・教育分野の職種である介護士や看護師と比べても開きがある状況です。

厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、各職種別の平均年収は以下の通りです。

職種 平均年収
保育士 約397万円
全産業平均 約450万円
介護士 約340万円
看護師 約492万円

保育士の初任給は地域や施設によって異なりますが、特に私立保育園では低めの設定が多く、公立保育園の方が安定した給与水準を保っています。

さらに、給与の変動要因として、経験年数や勤務地、施設の種類(公立・私立)、役職、性別(男性の方が平均年収が高い傾向)、年齢(年齢が上がるにつれて年収も上がる傾向)が挙げられます。

地域差も大きく、関東地方、特に東京都では保育士の平均年収が全国平均よりも高い傾向にあります。

一方で、地方では給与が低くなる傾向があるものの、住宅補助などの支援制度が充実している場合もあり、実質的な収入を考慮する必要があります。

近年、政府は保育士の処遇改善に向けた取り組みを強化しており、給与水準の向上が期待されています。

しかし、現場の保育士からは「業務量や責任に見合った十分な改善とは言えない」との声も多く、さらなる待遇の向上が求められています。

責任の重さと給与のアンバランス

保育士はこどもの命と成長を預かる重要な仕事です。

安全管理、発達支援、保護者対応など、多岐にわたる専門性と高い責任が求められます。

例えば、アレルギー対応一つとっても命に関わる責任を負っています。

また、発達の気になるこどもへの個別支援、虐待の早期発見など、社会的にも重要な役割を担っているにもかかわらず、その責任の重さに給与が見合っていないのが現状です。

労働時間の実態(持ち帰り仕事、サービス残業など)

保育士の労働時間は表面上の勤務時間だけでは計れません。

多くの保育士が次のような「見えない労働」を行っています。

  • 持ち帰りの製作物準備(平均週2〜3時間)
  • 翌日の保育準備や書類作成(平均週3〜5時間)
  • 行事前の準備(行事前は平均週5〜10時間増)
  • 園便りや連絡帳作成(平均週2時間)

ある調査では、保育士の約70%が何らかの持ち帰り仕事をしており、月平均10時間以上のサービス残業をしているという結果も出ています。

これらの時間を考慮すると、実質的な時給は最低賃金を下回るケースも少なくありません。

現役保育士の生の声(給与面での不満)

  • 「こどもたちのために頑張りたいのに、自分の生活が成り立たない」(20代保育士)
  • 「責任は重いのに、給料は事務職より低い。将来に不安を感じる」(30代主任保育士)
  • 「持ち帰り仕事が多すぎて、時給換算すると驚くほど低い」(40代ベテラン保育士)

多くの保育士が「やりがい」と「生活の現実」の間で板挟みになっています。

こどもたちへの愛情や使命感から続けている保育士も、家賃や生活費の上昇により、仕事を続けることが経済的に困難になっているケースが増えています。

保育士の仕事が割に合わないと感じる実態は、給与の低さだけでなく、責任の重さや見えない労働時間の多さにもあります。

以下の記事では「保育士なんてなるもんじゃない」と言われる原因について、給与以外の心理的側面からも詳しく考察しています。

保育士になるもんじゃないと思ったら読む記事|「闇が深い」実態とは
保育士なんてなるもんじゃない…そう思ったこと、ありませんか?理想を抱いて保育士になったものの、過酷な労働環境や低い給与、保護者対応のストレスなどに直面し、「こんなはずじゃなかった」と感じる人は少なくありません。私自身、10年以上保育の現場で...

次章では、こうした状況を改善するための政策動向について詳しく見ていきましょう。

保育士の給料アップは実現する?最新の政策動向

保育士の給料が割に合わないという問題に対して、政府や自治体はいくつかの対策を講じています。

処遇改善加算の拡充や新たな給与改善計画など、状況は少しずつ変わりつつあります。

処遇改善等加算の最新情報と実際の効果

保育士の処遇改善のための主な制度として「処遇改善等加算」があります。

この制度は保育所運営費に上乗せされる形で支給され、保育士の給与アップに活用されるものです。

2023年度からは「処遇改善等加算Ⅲ」が新設され、保育士の平均給与を月額約3%(約9,000円)引き上げる取り組みが始まりました。

さらに2024年10月からは、この加算が拡充され、さらなる給与アップが計画されています。

処遇改善加算の種類と効果

加算種類 対象者 加算額 実際の手取り増加額(推定)
処遇改善等加算Ⅰ 全保育士 基本給の約3% 月5,000〜8,000円
処遇改善等加算Ⅱ キャリアアップ研修修了者など 月額4万円(副主任・専門リーダー) 月30,000〜40,000円
処遇改善等加算Ⅲ 全保育士 基本給の約3% 月6,000〜9,000円

ただし、実際の現場では「処遇改善加算が満額支給されていない」「一時金として支給され基本給に反映されない」といった課題も多く報告されています。

制度と現実にはまだギャップがあるのが現状です。

2025年度以降の保育士給与改善計画の詳細

政府は2025年度以降も保育士の処遇改善を継続する方針を示しています。

具体的には以下のような計画が進められています。

  1. 処遇改善等加算の恒久化: 現在の処遇改善加算を一時的なものではなく、恒久的な制度として定着させる方針
  2. 保育士の給与水準引き上げ目標: 2025年までに全産業平均との格差を半減させる目標
  3. キャリアパス制度の拡充: より専門性を評価する仕組みを強化し、経験や能力に応じた給与体系の整備

特に注目すべきは、2025年度から始まる「第二期こども・子育て支援プラン」では、保育士の処遇改善が重点項目として位置づけられている点です。

このプランでは、保育の質の向上と保育士の待遇改善を一体的に進めることが明記されています。

自治体独自の上乗せ制度の事例と申請方法

全国の自治体の中には、国の制度に上乗せして独自の保育士処遇改善策を実施しているところがあります。

地域 制度名 内容 支給額・補助額
東京都 保育士等キャリアアップ補助金制度 研修受講やキャリアアップに応じた補助金支給 月額最大 62,000円 程度
横浜市 保育士宿舎借り上げ支援事業 賃貸住宅の家賃補助 月額最大 82,000円 程度
大阪市 保育士処遇改善臨時特例事業 給与に上乗せ支給 月額約 20,000円 程度
福岡市 保育士就職支援金制度 市内の保育施設就職時の一時金支給 一時金最大 200,000円 程度

これらの制度を活用することで、実質的な収入アップが可能になります。

申請方法は自治体により異なりますが、多くの場合、勤務先の保育園を通じて申請するケースが多いです。

自治体の独自支援を受けるためのポイント

  1. 自治体のホームページで保育士向け支援制度を確認する
  2. 園長や事務担当者に制度の活用について相談する
  3. 必要書類を準備し、期限内に申請する

キャリアアップ制度と給与への反映方法

保育士の給与アップを実現するもう一つの方法が、キャリアアップ制度の活用です。

国が定める保育士等キャリアアップ研修は以下の分野で構成されています。

  • 乳児保育
  • 幼児教育
  • 障害児保育
  • 食育・アレルギー対応
  • 保健衛生・安全対策
  • 保護者支援・子育て支援
  • マネジメント
  • 保育実践

「保育士等キャリアアップ研修」は、保育士の専門性を高め、より質の高い保育を提供することを目的とした制度です。

この研修を修了し、一定の経験年数を積むことで、「処遇改善等加算Ⅱ」の対象となり、月額4〜5万円の給与アップが見込めます。

具体的な流れは以下の通りです。

  1. 園や自治体が実施するキャリアアップ研修に参加(各分野15時間程度)
  2. 研修修了証を取得
  3. 園内でのキャリアアップに関する役割を担当
  4. 処遇改善等加算Ⅱの対象者として申請

研修は、以下の8つの分野で構成されています。

各分野は約15時間程度の研修時間で構成されています。

研修名 内容
乳児保育
0歳から3歳未満の乳児に対する保育の意義や適切な環境構成、発達に応じた保育内容を学ぶ。 乳児の発達段階に応じた関わり方や指導計画の作成を含む。
幼児教育
3歳以上の幼児に対する理解、適切な環境設定、発達に応じた保育内容を学ぶ。 就学に向けた小学校との情報交換や連携についても学ぶ。
障害児保育
障害のあるこどもの理解を深め、個々に応じた保育計画の作成や集団保育への工夫を学ぶ。 他の保育士への助言・指導ができる実践力を養う。
食育・アレルギー対応
栄養の基礎知識、食育計画の作成、アレルギーに関する正しい知識や対応を学ぶ。 園での食事提供やアレルギー対応ガイドラインの作成能力も養う。
保健衛生・安全対策
保健衛生と安全対策の理解を深め、計画の作成や実施能力を養う。 感染症対策や事故防止の知識も習得する。
保護者支援・子育て支援
保護者や子育て家庭への理解と支援の力を養う。 地域の子育て支援や虐待防止対策、保護者とのコミュニケーション能力向上を重視。
マネジメント
副主任保育士を目指す方向けの研修。 リーダーシップ、組織運営、人材育成など、保育園の円滑な運営に必要な知識を学ぶ。
保育実践
経験年数の少ない保育士や潜在保育士向けの研修。 こども理解、あそびを通じた主体性を重視する保育を学ぶ。 現場復帰を支援する内容だが、処遇改善等加算Ⅱの要件ではない。

保育士の給料アップは、国や自治体の制度を積極的に活用することで、ある程度実現可能です。

保育士の給料が割に合わないと感じたときはまず、最新の政策動向を確認してみましょう。

次章では、なぜ保育士の給料が割に合わないと感じられるようになったのか、その根本的な原因について掘り下げていきます。

なぜ保育士の給料は割に合わないのか?その原因を解説

保育士の給料が割に合わないと感じられる背景には、保育業界の構造的な問題があります。

財政面から社会的認識まで、複合的な要因が絡み合っています。

保育所運営の財政構造と保育士給与の関係

保育所の運営費は、国や自治体からの「公定価格」と呼ばれる補助金がベースとなっています。

この公定価格の仕組みが、保育士の給与に大きく影響しています。

公定価格は、園児の年齢や保育時間、地域区分などによって算定されますが、実際の運営コストとの乖離が指摘されています。

特に都市部では、地価や物価の高さに対して補助金額が十分でないケースが多く、結果的に人件費が圧迫される構造になっています。

多くの保育園では、全体の運営費の約7割を人件費に充てることが理想とされていますが、実際には建物の維持費や教材費などの経費が増大し、人件費比率が6割を下回るケースも少なくありません。

公定価格と人件費比率の問題

保育所運営にかかる公定価格の問題点

  1. 基準となる人件費が低く設定されている: 公定価格の算定基準となる保育士の給与水準が、全産業平均より低く設定されています。
  2. 地域区分による格差: 都市部と地方では物価差があるにもかかわらず、地域区分による加算が実態に追いついていません。
  3. 加算項目の複雑さ: 様々な加算項目があるものの、申請手続きが複雑で、特に小規模園では対応が難しい場合があります。

これらの問題により、保育園運営者は経営を維持するために人件費を抑える傾向があります。

結果的に保育士の給与が上がりにくい構造になっています。

「女性の仕事」「やりがい搾取」という社会的背景

保育士の給料が割に合わないと感じられる背景には、社会的・文化的要因も存在します。

  1. 「女性の仕事」としての過小評価: 保育は伝統的に「女性の仕事」「母親代わりの仕事」として捉えられ、専門性が適切に評価されてきませんでした。保育士資格保有者の約95%が女性という現状も、この認識を強化しています。
  2. 「やりがい搾取」の構造: 「こどもが好きなら低賃金でも我慢すべき」という風潮が、保育業界には根強く存在します。実際、多くの保育士が「こどもたちのため」という使命感から、劣悪な労働条件に耐えている実態があります。
  3. 「誰にでもできる仕事」という誤解: 保育の専門性が社会的に十分理解されておらず、「子守り」程度の単純労働と誤解されることがあります。実際にはこどもの発達心理学や教育学、栄養学、安全管理など、多岐にわたる専門知識が必要な仕事です。

保育士不足の悪循環と給与への影響

保育士の給料が割に合わない状況は、保育士不足という深刻な問題とも密接に関連しています。

  1. 保育士資格保有者の約半数が現場を離れている: 厚生労働省の調査によると、保育士資格を持つ人のうち、実際に保育現場で働いているのは約50%に過ぎません。
  2. 悪循環の発生: 保育士不足→残った保育士の負担増加→さらなる離職→さらなる保育士不足という悪循環が生じています。
  3. 人手不足による業務効率化の遅れ: 慢性的な人手不足により、ICT導入などの業務効率化が進まず、結果的に長時間労働が常態化し、「割に合わない」と感じる要因になっています。

保育士の給料が割に合わないと感じられる根本原因は、保育業界の財政構造や社会的認識など複合的な要素にあります。

しかし、個人レベルでもこの状況を改善するための対策を取ることは可能です。

次章では、保育士の仕事を「割に合う」ものにするための具体的な方法について解説します。

保育士の仕事を「割に合う」ものにするための具体策

保育士の仕事が割に合わないと感じている方へ、現状を改善するための具体的な方法をご紹介します。

給与アップだけでなく、働き方の見直しも含めた総合的なアプローチが重要です。

保育士資格を活かした高給与の職場・職種の選び方

保育士資格があれば、従来の保育園以外にも様々な職場で活躍できます。

給与水準が比較的高い職場・職種には以下のようなものがあります。

職種・職場 平均月給目安 特徴
企業主導型保育所 25〜30万円 福利厚生が充実、土日休み多い
病児保育専門施設 26〜32万円 看護師との連携、専門性が評価される
児童発達支援施設 25〜32万円 少人数、専門性が高い
認定こども園 24〜28万円 公立園は福利厚生が充実
ベビーシッター(独立) 時給2,000〜3,500円 働く時間の自由度が高い
保育コンサルタント 30〜40万円 経験を活かしたキャリアパス

これらの職場を選ぶ際のポイント

  1. 情報収集の徹底: 求人サイトだけでなく、保育士専門の転職サイトや口コミサイトで実態を調査
  2. 面接での確認事項: 残業状況、持ち帰り仕事の有無、有給休暇取得率など
  3. 園見学の実施: 可能であれば実際の職場を見学し、保育士の表情や園の雰囲気をチェック
  4. キャリアパスの確認: 昇給制度や研修制度が整っているかどうか

私自身の経験では、企業主導型の保育所に転職したことで、月給が5万円アップし、土日休みも確保できるようになりました。

職場選びは保育士の仕事を「割に合う」ものにする最も効果的な方法の一つです。

給与交渉の具体的な方法と成功事例

日本では給与交渉があまり一般的ではありませんが、保育業界でも適切な方法で交渉することで成果を上げている事例があります。

給与交渉の基本ステップ

  1. 自己評価の明確化: 自分の成果や貢献を具体的に整理(例:行事の中心的役割、保護者からの信頼獲得など)
  2. 市場価値の把握: 同じスキルレベルの保育士の相場を調査
  3. タイミングの選択: 年度末や人事評価の時期、または園の経営状況が良いときを選ぶ
  4. 建設的な交渉: 攻撃的ではなく、園運営への貢献と適正評価を求める姿勢で

成功事例

「5年間働いてきた実績と、最近取得した障害児保育の専門資格をアピールし、月給3万円のアップに成功しました。その際、自分の担当クラスの保護者満足度調査の結果も資料として提示しました。」(30代保育士)
「処遇改善加算Ⅱの対象になるための研修をすべて修了し、その事実と共に園内での役割拡大を提案して交渉したところ、月額4万円の手当が付くことになりました。」(20代後半保育士)

副業や特定スキル習得による収入アップ戦略

保育士の本業だけでなく、関連するスキルを活かした副業や特定スキルの習得による収入アップも効果的です。

保育士が取り組みやすい副業・特定スキル

副業の種類 収入目安 内容
保育関連の執筆活動 1記事 5,000〜20,000円 保育雑誌やWebメディアへの寄稿
教材制作 月5,000〜30,000円 手作り教材の販売
ベビーシッター 時給1,800〜3,000円 週末や夕方の時間を活用
保育講師 1回 10,000〜30,000円 保育士養成校や研修会での講師
子育てコンサルタント 月10,000〜50,000円 オンラインでの子育て相談

特定スキル習得による本業での収入アップ

資格名 月給アップ目安 内容・特徴
発達支援専門士 約3万円アップ 発達障がいや特別支援が必要なこどもの支援に特化
保育英語指導者 約2万円アップ 保育現場での英語教育に関する専門資格
食育アドバイザー 約1.5万円アップ こどもへの食育指導や栄養管理を学べる資格
睡眠コンサルタント 約2万円アップ 乳幼児の睡眠改善や生活リズムの指導に役立つ資格

このように、保育のスキルや知識は様々な形で収益化が可能です。

ワークライフバランスを改善するための交渉術

給与だけでなく、労働環境の改善も「割に合う」と感じるために重要です。

ワークライフバランス改善のポイント

  1. 具体的な提案を行う: 「残業を減らしてほしい」ではなく「ICTシステム導入で連絡帳作成時間を短縮できる」など具体策を提案
  2. 複数人での改善提案: 個人ではなく、複数の保育士で改善案をまとめて提案する方が受け入れられやすい
  3. 段階的な改善を提案: 一度にすべてを変えるのではなく、優先順位をつけて段階的に改善する提案
  4. Win-Winの関係構築: 園運営者にとってもメリットがある形での提案(例:業務効率化で残業代削減など)

成功事例

「持ち帰り仕事が多かった書類作成について、園内で15分早く来て集中して行う時間を確保する代わりに、その分早く帰れる制度を提案し、実現しました。結果的に持ち帰り仕事がほぼなくなりました。」(30代保育士)
「行事準備の負担軽減のため、保護者会と協力して一部作業を保護者参加型にする提案をしました。園と保護者の交流も深まり、保育士の負担も減るという一石二鳥の効果がありました。」(40代主任保育士)

保育士の仕事を「割に合う」ものにするためには、職場選びからスキルアップ、交渉術まで多角的なアプローチが必要です。

給与面だけでなく、働き方の質も含めて総合的に改善していくことが大切です。

次章では、金銭以外の面から保育士の仕事の価値を再評価してみましょう。

それでも保育士を続ける価値とは?

保育士の仕事が給与面で割に合わないと感じても、多くの保育士が仕事を続ける理由があります。

金銭以外の「報酬」について考えてみましょう。

保育士の価値とは

保育士の仕事には、給料では測れない価値があります。

  1. こどもの成長に直接関われる喜び: こどもたちの「できた!」の瞬間や、少しずつ成長していく姿を間近で見られることは、何物にも代えがたい価値があります。1年間クラスを受け持った後、こどもたちの成長を実感できたときの充実感は保育士ならではの報酬です。
  2. 社会貢献の実感: 保育士は次世代を育てる重要な社会的役割を担っています。日本の未来を支えるこどもたちの成長に関わることで得られる社会貢献の実感は、精神的な充足感につながります。
  3. 人間関係の豊かさ: こどもたち、保護者、同僚との深い人間関係を築けることも保育士の魅力です。特に保護者から「先生がいてくれて安心です」と言われたときの喜びは計り知れません。
  4. 自己成長の機会: 保育の仕事は自分自身も成長し続ける仕事です。こどもたちと向き合う中で、忍耐力や創造性、コミュニケーション能力など様々なスキルが磨かれます。

ある調査では、保育士の87%が「こどもの成長に関われることにやりがいを感じる」と回答しています。

給与面で割に合わないと感じても、こうした精神的な報酬が多くの保育士を支えているのです。

キャリア形成の視点から見た保育士の将来性

保育士資格は、様々なキャリアパスを切り開くための基盤になります。

保育士のキャリアパス例

  1. 管理職への道
    • クラス担任→副主任→主任→園長
    • 給与面でも30〜50%のアップが期待できる
  2. 専門性を深める道
    • 発達支援専門士、子育て支援専門員など
    • 専門分野での講師やコンサルタントとしての活躍
  3. 活躍の場を広げる道
    • 保育園以外の児童福祉施設、企業、行政など
    • 保育の知識を活かした異業種への転身
  4. 起業の道
    • 小規模保育所の開設
    • 保育関連サービスの立ち上げ

保育士の資格や経験は、意外にも多様な場面で評価されます。

例えば、私の同期は保育経験を活かして子育て関連企業の商品開発部門に転職し、給与が1.5倍になった例もあります。

また、保育士経験者が活躍している職場は以下のような例があります。

  • 児童書出版社の編集者
  • おもちゃメーカーの商品開発担当
  • 自治体の子育て支援課職員
  • こども向けプログラミング教室の講師

保育士の仕事が割に合わないと感じても、その経験や資格は将来的に大きな財産になり得るのです。

保育士の社会的評価を高めるための取り組み

保育士の社会的評価を高め、「割に合わない」状況を改善するための取り組みが全国で広がっています。

  1. 保育の専門性の可視化
    • 保育ドキュメンテーションの活用
    • 保育実践の研究発表や論文執筆
    • SNSでの保育実践の発信
  2. 保育士団体の活動
    • 全国保育士会などの組織的な待遇改善運動
    • 政策提言や署名活動
    • 保育フェスティバルなどのイベント開催
  3. メディア露出の増加
    • 保育士インフルエンサーの活躍
    • 保育現場を取り上げたドキュメンタリー番組
    • 保育士の日常を描いた漫画やエッセイの人気
  4. 異業種との連携
    • 企業とのコラボレーション企画
    • 大学など研究機関との共同研究
    • 地域コミュニティとの連携プロジェクト

こうした取り組みにより、少しずつですが保育士の社会的評価は向上しつつあります。

最近では「保育士=単なる子守り」という認識から「こどもの教育と発達を支える専門家」という認識に変わりつつあります。

私自身も地域の子育て支援イベントで保育士の専門性をアピールする講座を開いたところ、「保育士さんの仕事の奥深さを初めて知りました」という声を多くいただきました。

一人ひとりの活動が社会的評価を高める一歩になるのです。

職場環境改善のための同僚との協力体制の作り方

保育士の仕事が割に合わないと感じる大きな要因に「職場環境」があります。

これを改善するためには、同僚との協力体制が不可欠です。

効果的な協力体制づくりのポイント

  1. 定期的なミーティングの実施
    • 週1回の短時間ミーティングで情報共有
    • 全員が発言できる雰囲気づくり
    • 問題点だけでなく改善策も話し合う
  2. 業務の可視化と分担の最適化
    • 各自の得意分野を活かした役割分担
    • 業務内容と所要時間の見える化
    • 無駄な業務の洗い出しと削減
  3. 相互サポートの仕組み化
    • バディシステムの導入(2人1組で相互サポート)
    • 緊急時のヘルプシステムの構築
    • 経験者と新人のメンター制度
  4. 心理的安全性の確保
    • 失敗を責めない文化の醸成
    • 意見や提案が言いやすい関係づくり
    • 定期的な振り返りと感謝の表明

実際に、こうした協力体制を整えることで職場環境が大幅に改善された例があります。

「以前は各自が黙々と仕事をこなし、負担が偏っていました。しかし、週1回の『改善ミーティング』を始めてからは、業務の偏りが解消され、残業も減りました。特に行事前の準備も分担が明確になり、以前の半分の時間で終わるようになりました。」(30代保育士)

保育士の仕事が割に合わないと感じる背景には、個人で抱え込む文化があります。

同僚との協力体制を構築することで、精神的にも時間的にも余裕が生まれ、仕事の満足度が高まるのです。

次章では、長期的な視点で「割に合わない」状況を改善するための方法をご提案します。

保育士が直面する「割に合わない」状況を改善するために

保育士の仕事が割に合わないと感じている方へ、計画的に状況を改善する方法をご紹介します。

短期的な対策から長期的なキャリア設計まで、段階的なアプローチが重要です。

3年後、5年後、10年後のキャリアプランの立て方

保育士が「割に合わない」状況から抜け出すためには、明確なキャリアプランが不可欠です。

保育士のキャリアプラン作成のステップ

  1. 現状分析
    • 自分の強み・弱みの棚卸し
    • 現在の給与・労働条件の把握
    • 自分が大切にしたい価値観の明確化
  2. 目標設定
    • 3年後:具体的なスキルアップと待遇改善
    • 5年後:希望するポジションや職場環境
    • 10年後:理想のキャリアの姿
  3. ロードマップ作成
    • 目標達成に必要な資格・研修の計画
    • 転職やキャリアチェンジのタイミング
    • 副業や特定スキル習得の計画

具体的なキャリアプラン例

期間 目標 具体的アクション
1年目 基盤づくり ・処遇改善加算Ⅱ対象の研修受講
・園内での役割拡大
・保育に関する情報発信開始
3年目

専門性向上・収入20%アップ

・発達支援の専門資格取得
・主任保育士への昇進
・副業として保育コンテンツ制作

5年目 職域拡大・ワークライフバランス改善 ・児童発達支援施設への転職
・オンラインでの子育て相談開始
・保育関連の執筆活動
10年目 経済的自立・社会的影響力拡大 ・小規模保育施設の立ち上げ
・保育士養成校での講師活動
・保育関連の著書出版

給与・待遇改善を実現した保育士の例

実際に「割に合わない」状況から抜け出し、給与・待遇の改善に成功した保育士の事例をご紹介します。

事例1

専門性を極めた保育士(Aさん、35歳) Aさんは一般的な保育園で月給21万円でしたが、発達支援の専門知識を身につけるため、休日を利用して関連資格を取得。

その後、児童発達支援施設に転職し、月給32万円、土日休みを実現。

さらに、発達コンサルタントとして副業で月5万円の収入も得ています。

「最初は給料が低くても経験を積むことが大切だと思っていました。でも、その経験を活かす場所を自分で選ぶことで、収入とワークライフバランスが大きく改善しました」(Aさん)

事例2

マネジメントスキルで昇進した保育士(Bさん、42歳) Bさんは10年間クラス担任を続けた後、園内マネジメントに関するキャリアアップ研修を受講。

主任保育士に昇進し、処遇改善加算Ⅱの対象となって月給が5万円アップ。

さらに、自治体の保育アドバイザーとしても活動し、年間30万円の副収入を得ています。

「保育現場では専門性だけでなく、マネジメントスキルも重要です。研修で学んだことを積極的に実践し、園長から認められたことが昇進につながりました」(Bさん)

事例3

転職で労働環境を改善した保育士(Cさん、28歳) Cさんは持ち帰り仕事が多い園から、ICT化が進んだ企業主導型保育所に転職。

月給は2万円のアップにとどまりましたが、残業がほぼなくなり、有給休暇も取得しやすくなりました。

実質的な時給は1.5倍に向上。

「給料だけでなく、労働時間や休暇取得のしやすさなど、総合的な待遇を見て転職先を選びました。生活の質が大きく向上し、保育への意欲も戻りました」(Cさん)

これらの事例に共通するのは、「待遇改善を待つのではなく、自ら行動した」という点です。

保育士の仕事が割に合わないと感じたとき、状況を変えるための一歩を踏み出す勇気が大切なのです。

労働環境改善に成功した保育園の事例

保育士個人の努力だけでなく、組織全体で労働環境の改善に取り組んだ成功事例もあります。

事例1

ICT導入で業務効率化を実現した保育園 東京都内のA保育園では、保育記録や連絡帳のICT化を進め、書類作成時間を1日あたり平均60分削減。

空いた時間を保育準備や休憩に充てることで、持ち帰り仕事がほぼゼロになりました。

導入費用は初年度の残業代削減でほぼ回収。

事例2

フレックスタイム制を導入した保育園 大阪府のB保育園では、コアタイム(9:00〜15:00)以外は柔軟に勤務時間を選べるフレックスタイム制を導入。

早朝や夕方の時間帯は希望者が勤務する仕組みにしたことで、全員が毎日フルタイムで勤務する必要がなくなり、ワークライフバランスが向上しました。

事例3

「ノー残業デー」を設定した保育園 神奈川県のC保育園では、毎週水曜日を「ノー残業デー」に設定。

その日は17時までに全員が退勤できるよう、行事準備などの業務を他の日に分散させる工夫をしています。

また、月に一度「業務改善会議」を開き、無駄な業務の洗い出しと改善を継続的に行っています。

事例4

「持ち帰り仕事ゼロ」を実現した保育園 福岡県のD保育園では、「持ち帰り仕事ゼロ」を目標に掲げ、以下の取り組みを実施。

  • 製作物の簡素化とこども主体の活動への転換
  • 保護者への書類配布をデジタル化
  • 園内に「集中作業タイム」(1日30分)を設定
  • 行事の精選と内容の見直し

これらの取り組みにより、1年間で保育士の離職率が20%から5%に減少し、求人へのエントリー数も3倍に増加しました。

こうした事例は、保育園全体で環境改善に取り組むことの重要性を示しています。

もし自分の園でも同様の取り組みを始めたいという場合は、成功事例を具体的に示して提案してみるとよいでしょう。

保育士の価値を高めるために行動できること

保育士の仕事が割に合わないと感じている状況を変えるためには、個人レベルでの行動も重要です。

短期的アクション(3ヶ月以内)

  1. 自己投資の開始
    • 保育関連の専門書を月1冊読む
    • オンライン研修に参加(多くは無料で受講可能)
    • 処遇改善加算対象の研修情報を収集
  2. 業務効率化の工夫
    • 日々の業務の時間分析を1週間行う
    • 無駄な作業や簡略化できる業務をリストアップ
    • デジタルツールの活用法を学ぶ
  3. ネットワーク構築
    • SNSでの保育士コミュニティに参加
    • 園外の保育士との情報交換会に参加
    • 自治体や関連団体のセミナーに参加

中期的アクション(6ヶ月〜1年)

  1. 専門性の向上
    • 特定分野の専門資格取得に向けた学習開始
    • 園内での役割拡大の提案
    • 保育実践の記録・分析の習慣化
  2. 情報発信の開始
    • 保育実践や知識をブログやSNSで発信
    • 地域の子育て支援イベントでミニ講座を企画
    • 保育雑誌などへの投稿にチャレンジ
  3. キャリアプランの具体化
    • 複数の園の求人情報を定期的にチェック
    • 転職エージェントへの登録と情報収集
    • 保育以外の関連職種についても調査

長期的アクション(1年以上)

  1. キャリアチェンジの準備
    • 希望する職場・職種に必要な資格・スキルの取得
    • ポートフォリオの作成(保育実践の記録、研修歴など)
    • 副業やボランティアでの経験蓄積
  2. 社会的活動への参加
    • 保育関連の研究会や勉強会への参加
    • 保育士の労働環境改善を目指す団体への参加
    • 自治体の子育て支援政策への提言
  3. 独立・起業の検討
    • 小規模保育事業の立ち上げ調査
    • オンライン子育て相談サービスの検討
    • 保育コンサルタントとしての活動準備

私自身は、このようなステップを踏んで、一般的な保育園の保育士から、発達支援に特化した施設の主任保育士へとキャリアチェンジしました。

その過程で給与は1.4倍に増え、持ち帰り仕事もほぼなくなりました。

保育士の仕事が割に合わないと感じるとき、諦めるのではなく行動することで状況は必ず変わります。

一人ひとりの保育士が自分の価値を高め、適切な評価を受けられる環境を作っていくことが、保育業界全体の変革につながるのです。

保育士の仕事はこどもたちの未来を支える尊い仕事です。

その価値に見合った評価と待遇を獲得するために、自分自身のキャリアを主体的に考え、行動していきましょう。